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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ―第1章 最初の一歩―
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第18話 チーム?(1)



「もしも“本物の人間”を召喚できたなら、それは“(最強)”だとは思わないかね?」



(ふざけるな!)


 勝輝は心の中で叫んだ。


(そんなことが、あってたまるものか。よりによって、『召喚能力』が、だと!?

あんな“物”を創る能力が、最強?この世で最も俺が忌み嫌う能力が、俺の『能力破壊』より上だというのか!!ばかばかしい!俺は『召喚体』を破壊できる。この俺に、破壊できない能力なんてない!

 其れだと言うのに――)


勝輝は瞳を閉じ、さらに思考にふける。


(それに、そんなことは、あってはならない。

俺は、強くなければならないんだ。

どんなダイバーズよりも、どんな能力よりも。


ーーそう、特に召喚能力なんてものよりも、強くあらなければならない。

だって、俺は、召喚体なんかじゃない。

人間だ。召喚体を破壊できるダイバーズだ。

少なくとも、召喚能力者だけには負けられない!

なのにあの男は――)


再び、勝輝の脳裏に男の言葉が甦る。


(“本物の人間”を召喚できたなら、それは“(最強)”だとは思わないか、だと?何故そんなことを言う必要がある!!しかも、この俺に、だ!

 まるで俺が、俺が――!!

俺が、“(ザ・ファースト)”につくられた人間(召喚体)だとでも言っているみたいじゃないか!!!)


「おい勝輝!聞こえているのか!?」

「――!?」

「あ、ようやく気が付いたな。」


 勝輝の前で、肩を竦めて笑う青年が一人。高木である。


「なんだ、もう眠くなったのか?」

「いや……」


 勝輝は高木の冗談を無視し、今自分が置かれている状況を周囲の様子から思い出す。 爽やかな青空に、うるさく鳴く蝉の声。グラウンドに響く人の掛け声。数名の男女がチームを組み、互いに能力を使って“試合”をやっていた。

 そう、今彼は部活動の、真っ最中だった。


「ぼーっとするなんて、珍しいねぇ。勝輝君!」


高木の隣に座る足立が、両手をロボットのように振りながら勝輝に声をかける。


「いや、すまない。少し考え事をしていただけだ。」

「ふぅん。……昨日のこと、か?」


 高木の言う「昨日」という言葉が指す内容を、勝輝は瞬時に理解した。


「……ああ、そうだよ。()()()、ことだ。」

「まぁ、ありゃあ全面的にお前が悪いぜ。いくら何かあったとしても、な。」

「悪かったとは、思っているよ。」


勝輝は彼から視線を逸らす。と、最悪なことにその視線が()()に合ってしまった。


「私は気にしていないわ。ちゃんと、今朝謝ってもらったのだし。」

「……」


 顔の表情と文面が全く一致していない返事が、大原の口から飛び出した。大原は爽やかに笑っているが、その口調は明らかに“心に刺さった棘”が抜けていない。怒っていると言うのとは確かに少し違うが、気にしていないというには無理があった。


「確かにあたしもあれはナイワ――と思ったけど、今は!」


 陰気な空気を吹き飛ばすように、山田は5人の前に紙を広げた。


「作戦を立てるわよ!!」




――1時間前――

 

「よぉし、お前ら!今日から能力を使っての訓練を開始する!!」


 白銀の朝礼台を無意味に2つも積み上げたその上で、能力競技部部長、工藤藍はグラウンド中にその声を響かせる。


「お前たちも知っての通り、ダイバーズにはその能力の熟達度に応じてレベルが存在する。

Cランクから始まり、そこからB、A、S、SS、そしてSSSランクを最上位とする6階級だ。全世界のダイバーズの平均ランクはC寄りのBだ。すなわち、この世のほとんどの能力者ってのは、大体みんなおんなじレベルだ。じゃあ、SSやSSSになるような奴らと、お前たちとの違いはなんだ。それは――」

「『保存時間の長さ』と『含有率の割合の大きさ』です!」


 工藤に負けないような大声で、高木が答える。

 それを見ると工藤は口元に笑みを浮かべ、話を進める。


「――いいね。オレに張り合うその勢い、嫌いじゃねぇ。ってこと後で勝負だ。」

「ええっ!?」

「で、その『保存時間』と『含有率』についてだが、再度確認する。

 この二つは能力のレベルの高さを評価する際に使われるもの。

 『保存時間』とは、“エーテルに情報(イメージ)を保存できる時間”のこと。空間型ダイバーズなら30分、身体型ダイバーズなら15分が平均だ。

 で、『含有率』とは、“一定の体積内に情報(イメージ)を付与させたエーテルがどれだけ存在するか”を示した値だ。身体型も空間型も関係なく、どんな能力であれその平均はおおよそ40%だと言われている。」


 工藤の言葉に、高木は小さくつぶやく。


「ふーん。陽子の体についている獣耳(ケモミミ)も、優華の召喚体(アン)も、密度は40%程度ってことか?」

「そうなんじゃないかなぁ~スカスカだね!」

「それはちょっと違うわ。」


 ふわふわとした声にぴしゃりと言い切ったのは、大原だった。

足立は首を傾げながら彼女に尋ねる。


「どゆこと、典子ちゃん。」

「今のそれは、空気に対する単なる密度、ということを考えているのでしょう?」

「うん。」

「『含有率』が指す意味は、それだけではないの。あれは、“自分が使っているエーテルの内、どれだけのエーテルに情報を入力できたか”というものを指す言葉なの。

 数式で描けば、

『情報の入っているエーテルの数』÷『使用している全エーテルの数』÷『能力行使の領域』

になるわ。」

「うーん。わかんない。」


首をさらに傾げる足立に、大原は静かに説明する。


「例えば、1メーター四方の空間に200個のエーテルがあって、うち半分の100個のエーテルを使って『創造体』の剣を創ったとしましょう。」

「うんうん。」

「この場合『含有率』は50%、という訳ではないわ。」

「えっ!!そうなのか!?」


 隣で聞いていた高木が驚いて声を上げる。


「ええ。まず、一定体積――つまり『能力行使の領域』は、この場合創造体の体積、即ち創った“剣”の体積を指すわ。今回はこれを1立方メートルとしましょう。」

「なるほど。それで?」

「そして、ここでポイントなのが、()()()()()()1()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということよ。」

「そうなの!?」


足立が狐耳をピンと立たせる。大原は頷き、さらに続ける。


「剣という形だけを構成するのであれば、物体の表面部分に位置するエーテルに情報を付与するだけでいいのだそうよ。」

「マジか。」

「そう。境界線を形作るっていえばいいのかしらね。

だから、例えば、100個のエーテルを使って剣を創ったとして、そこに含まれているエーテルの内、20個だけに情報が入っている場合……」

「ええと、『情報の入っているエーテルの数』は20個で、『使用している全エーテルの数』が100。体積は1立方だから……」

「『含有率』は、20%ってこと?」


高木につづけて足立が答える。その言葉に大原は頷いた。


「その通りよ。この場合、一切ふれていない残り100個のエーテルは『含有率』にはカウントされないの。

 そして『含有率』が低いと、能力そのものの強度が落ちるわ。たとえ『保存時間』がどれだけ長くても、『含有率』が低い“剣”は、“脆い”。」

「つまり、『含有率』が平均40%ってことは――強度40%ってこと?」

「まあ、モノの強度ってそこまで単純ではないけれど、大体そう考えて貰えばいいわ。そして同時にそれは――」

「能力を行使しているうちの残り60%のエーテルには、()()()()()()()()()()()()、ということだ。」


 勝輝のつぶやきに続けるように、壇上で工藤が叫ぶ。


「ダイバーズは生まれつきその能力の発生速度と効果範囲は決まっているが、この『保存時間』と『含有率』は練習次第で変化する。

 『保存時間』が長ければ、能力をより長時間持続できるだけでなく、能力を使った“特殊な技”を使えるようになる。

 『含有率』を高めれば、能力を安定して使うことができる上に、その“技”の質を上げられる。

 この二つの数値もそれぞれ一定間隔で“階級”がつけられており、そいつの組み合わせでダイバーズのランクが決定されている。」

「ふーん。ってことは、要は『保存時間』が長ければ技を増やせ、『含有率』を高めれば“技”のレベルが上がるってことか。」

「なるほど。そのふたつのステータスを上げることでプレイヤー(ダイバーズ)経験値(ランク)が上がるってわけね。」


 高木と山田が納得すると同時に、工藤は部員たちにあることを告げた。


「――で、だ。お前たちには、この合宿で『保存時間』と『含有率』のレベルを上げてもらう。

具体的に言うと、『保存時間』は空間型で45分、身体型で25分、『含有率』は関係なく51%。つまり諸君らには――」


 工藤はニヤリと笑い、低く、きっぱりと言い切った。


「――Aランクに、なってもらう。」


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