第19話 チーム?(2)
「えええ!?」
グラウンドに震撼が走った。
「ちょ、まてまてまて。そいつは――無理なんじゃないのか!?」
「う、うん。かなりきついとか、そういう問題じゃないわね……」
苦笑する山田に、足立が尋ねる。
「え?どうしてー?」
「だって、この世界のダイバーズの平均はC寄りのBランク。それはつまり、世界中のほとんどの人が、Bより一つ上に行くことができないんだよ!?それなのに、あの人は平均より上を――ランクを2つ上げろ、と言っているんだよ!」
「え゛」
ざわめく部員たちに、さらに残酷な言葉を工藤は述べた。
「この合宿でそれを達成できなかった奴は、今年の能力競技大会に出場する権利はないからな!」
「ええええ!?」
「ちょ、ちょっとそりゃあんまりです!!だって合宿なんて、あと5日しか……!!」
「はぁ?できない、だぁ?てめぇら――死にてぇのか!!」
ブーイングをする部員に、工藤は言い切った。
「おい、葵。こいつらに大会の時間の話をしてくれ。」
「はいはい。」
葵は苦笑すると、動揺する部員たちに向かって説明をし始めた。
「能力競技大会は団体戦と個人戦で、種目は大きく三種類です。しかし、どれに出たとしても、皆さんの前には絶対的な課題が存在します。
それは、試合の時間です。」
「……試合の、時間?」
「ええ。足立さん。能力競技部の試合は、団体・個人、そして種目に関わらず、きっかり1時間行われるのです。」
「!!」
ようやく、部員たちは理解した。その顔を見た工藤は、言葉を続ける。
「いいか、ダイバーズの保存時間の平均は空間型でも30分だ。そんな状態で『疲労限界』なんぞになってみろ。試合時間の半分も能力が使えない、かつ発動させた能力は効果が切れています、なんて、格好のカモでしかねぇ。サッカーの試合で、後半戦メンバー全員がベンチ入りとか、シュートされまくりだろうが。」
「で、でも、いくら何でも5日って……」
狼狽える部員に、工藤はため息をつく。
「はぁ。お前たちは一体今まで何のために地獄のような体力トレーニングをやってきた?彼氏彼女にモテるための体づくりか?ふざけんな。全ては、この日のためだ!」
「!」
「いいか、保存時間と含有率を上げるのは確かに至難の業だ。だが、不可能ではない。現に小平咲、井上健太、和田龍也は去年、この5日で実際にレベルを上げて見せた。
そしてそれを上げる術を、オレや葵は知っている。それをこの5日でお前たちに教えてやる。」
工藤は再び声を張り上げ、グラウンドにその威厳を示す。
「お前たちはこれまでの基礎訓練を生き残った奴らだ。お前たちに不可能はない!必ず這い上がってくると信じている!
さぁ、訓練開始だ!!」
◇
――現在――
「……とまぁ、軍隊みたいなノリで始まった訓練なんだけど、まずは互いの能力の特徴を認識するためのチーム対抗の模擬試合を行うことになったわ。で、それだけだったらまだよかったのに……」
「まさかいきなり工藤先輩のチームと戦うことになるとはな。」
高木が頭を掻きながら苦笑する。
「それはもう、高木君のせいだよぉ。張り合うから~」
「まったくよ。」
「いや、あれ全く関係ないだろ!!そんなつもり一ミリもなかったってーの!」
「ほんとにぃ〜?」
口をとがらせる高木に、山田が面白おかしく便乗する。が、すぐさま山田は話を戻した。
「で、まぁ冗談は置いといて、流石にノープランであの人たちに試合なんて瞬殺されるだけだから、計画を練らなきゃいけない訳よ。」
彼女は試合コートの見取り図を見せ、四人に説明する。
「今回の模擬戦はいたってシンプル。旗取合戦みたいなものね。」
「旗取り合戦?」
「そう。5人対5人で行うチーム戦。フィールドは縦100メートル、横50メーターのエネルギーシールドが張られた直方体空間。それぞれのチームはフィールドの両端に自陣があり、旗が一本立てられているわ。」
「あ、分かった。その旗をとりあうんだね!」
「そ!この試合は相手チームの旗を奪取するか、相手チーム全員の『ライフポイント』を先にゼロにした方の勝ちになるものなのよ。」
「『フラッグ・マッチ』、か。」
「そう!さすが勇人。能力競技試合やっていただけのことはあるわね。」
山田は指を鳴らす。
「『フラッグ・マッチ』は、ダイバーズの最も基本の試合形式よ。単純にエネルギーシールドに囲まれた空間で戦闘不能になるまで戦うってやつは『キューブ・マッチ』って呼ばれるけど、其れより能力の応用が利くから、どんなダイバーズでも楽しめるわ。
因みに、防具のライフポイントは一人当たり30点。これがゼロになったプレイヤーは戦闘不能の判断が下されて以降試合に参加できなくなる。」
「うぇ!?やっぱり戦うの!?そんなこと言われても、陽子は戦闘タイプのダイバーズじゃぁないよう!?そんなの、いくら能力の応用が利くっていっても、わたしなんかネギを背負ったカモだよぉ。」
カモのように口をとがらせる足立に、山田は笑う。
「いや。そんなことはないよ。だってこれはダイバーズの基本の試合形式。どんなダイバーズでも試合に参加できるように創られた競技だもの。」
「?どういうこと?」
「それを、これから説明す――」
「必要ない。俺が全て倒す。」
山田の声を遮り、勝輝が輪を離れる。
「ちょっと!どこ行くのよ、勝輝!」
「別に。あと数分で試合が始まるんだろう?だったら、体を慣らす必要がある。少し、走ってくる。」
「ちょ、待ちなさ――」
山田の制止も聞かずに、勝輝はそのまま走り去ってしまった。その後ろ姿は凛々しさなど一切ない。まるで何かに急き立てられて逃げるかのようで、焦りに満ちていた。
「……あいつ、ホントに大丈夫なのか?」
あっという間にゴマ粒のようになった勝輝の後姿を見て、高木がつぶやく。彼は心底勝輝を心配していた。昨日から――いや、あのカラオケ以降、勝輝の様子がおかしすぎる。それが高木の心の中で、落とせない染みのように居座り続けた。
一方、そんな彼とは反対に、話を折られた女性が、猫のようにその赤毛を逆立てていた。
「あんのバカ!あいつの能力が一番この試合に影響するってのに!!なんであんなに非協力的なわけ!?」
「ま、まぁまぁ。彼も昨日のことがあって話しづらいんじゃないかなぁ。」
「いや、あれはもうそのレベル超えているでしょ。」
足立のなだめも効果はなく、山田は怒り心頭で腕を組んでその場に座り込む。
「やっぱあたし、あいつのこと信用できないわ。」
「いや、おいおい。それをいっちゃおしまいだぞ。」
「だって!」
山田は拳を握りしめ、目の前に広がる白紙の紙を睨み付ける。
「あたしは――あたしは、遊びでやっているんじゃないのよ。絶対に譲れない目的のために、この部活に入ったんだ!」
「……」
その言葉に、高木は何も言わなかった。ただ「仇を討つ」、そんなことを言わないでくれと、その瞳は語っていた。
(だって、優華……試合の話をしている時のお前の顔は――)
その視線に気が付くこともなく、山田はさらに想いを吐露する。
「それに、ただでさえ、典子にあんなこと言ったのも許せないのに!」
「……やっぱり、許していなかったのか。」
「あったりまえでしょ!!」
高木は山田の荒々しい口調を聞いて頭を掻く。そして、少し話題を逸らそうと大原に声をかけた。
「そういや、このメンバーで試合をするってなると、典子も参加するわけだよな?特秘能力者が能力使っても大丈夫なのか?」
「……それは、ある程度であれば、問題ない場合もあるけど……」
大原は小さくため息をついて視線を逸らす。その瞳は泳ぎ、右手は左腕を強くつかんでいた。
「私は……使えないわ……」
「Oh……」
高木はチラリと足立を見た。足立は足立でおどおどとその場で何をするでもなく、そして何かをしない訳でもなく、ただどうしたらよいか分からず立っているだけだった。
高木は大きなため息をついた。
(こりゃ、前途多難だな……)




