表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ―第1章 最初の一歩―
79/114

第13話 合宿の始まり(2)


 千葉県にある、とある海岸沿いの合宿所。大学が保有するその施設は、1つの山とその周辺数十ヘクタールを敷地とする、巨大な森林にあった。敷地内には体育館や陸上競技場、テニスコートの他、ダイバーズが使用する()()なスポーツ設備が完備されている。

 そしてそれらから少し離れた、海に最も近い5階建ての白い建物が、今勝輝たちのいる宿泊施設であった。

 宿泊施設といっても、埃が積もったコンクリートの監獄のような堅苦しいものではなく、どちらかといえば高級ホテルに近い。入口のエントランスは海の見える巨大な窓ガラスが壁一面を覆い、金色の刺繍が施された赤い絨毯が足音を穏やかに吸収する。大理石の壁は触れると冷たく気持ちがよい。それでいてシャンデリアのあたたかな色を静かに反射し、空間を常に明るく穏やかに仕上げている。

 そんなホテルの一階のホールに、彼らは集まっていた。純白のテーブルクロスがかけられた複数の円形テーブルの周りで、学生たちが笑い合っている。


(――()()、そんなにも楽しいのか。

くだらない。こんなもの、見せかけでしかないくせに――)


 彼等を尻目に、吉岡勝輝は手に持ったグラスの中身を一口飲む。

彼の視線の先では誰しもが口角を上げ、いつも以上にその表情はくだけている。


「おいおい、どうしてそんな葬式に来ているみたいな顔しているんだよ。」


 柱に背を預けている勝輝に、高木が意気揚々と声をかけた。勝輝は「またか」というようにため息をつき、適当な理由をつくって高木に放り投げる。


「なんでもない。ちょっと今日のトレーニングに疲れを感じているだけだ。」

「そうか?そういうふうには見えねえけど……まあ、今日はいつにもましてハードだったからな。飯の後じゃ眠くもなるわな。」

「……」

「それともやっぱり、具合でも悪いのか?」

「いや。そんなことはない。」

「そうか。ならよかった。」

「……」

「ま、具合が悪くなったら言ってくれ。医療担当の葵先輩に話しかけるいいチャンスだからな!あははは!」

「……」

「いや、黙るなって。こういう時は『お前そんなキャラだっけ』とか、突っ込んできてくれ。」

「……話し相手がいないのか?」

「そういうツッコミは求めてない!」

「……」


 再び石像のようになる勝輝に、高木は静かに言った。


「……なあ、お前さ、何があったんだ?」


 勝輝が高木を振り返ると、そこには何か大切なモノをなくした子供の顔があった。熊のような屈強な男が、今にも苦しみに崩れ落ちそうな顔をして、そこに立っていた。


「……え?」


 勝輝は意味が分からず後ずさった。何が起きたのか、全く理解できなかった。ただ、それはおそらく、勝輝以外の誰が見ても理解できなかっただろう。まだ知り合って1か月しかたっていない相手に、しかも自ら人を避けているような人物相手に、そこまで心底心配することが出来る者はそうそういないだろう。

 まるで長い間離れ離れになっていた知人が、変わり果てた姿で現れてしまった――彼の表情は、そんな場面に遭遇したと言わんばかりのものだった。

 だが、それは一瞬で彼の顔から消え去った。立食パーティーの中心にあたるテーブルから、山田が二人に声をかけたのだ。それを転機に高木はいつもの厚かましい笑顔を作ると、勝輝に屈託のない声で言った。


「あ、そうだそうだ。呼ばれていたんだった。行こうぜ、勝輝。」

「――」


 勝輝は妙な焦燥感にかられながら、その重い足を動かした。



「へえ、それで京都からこっちに来たんだ。」

「はい。京都能力者大学はダイバーズの歴史や法律系の研究が盛んでしたけど、私としては、もうそれは()()()()()だったので。それで能力の使い方が学べる東京の方に来たんですよ~」

「まあ、陽子は歴史の授業ほとんど寝てるもんね。」

「だって眠いんだも~ん」

「何の話だ?」


 頬を膨らませる足立に、高木は尋ねる。


「どこの出身かって話だよ~。」

「ふうん。あ、そういや陽子は京都にいたんだっけか。京都弁ってわけじゃないからつい忘れちまうな。」

「まぁ、陽子も京都生まれって訳じゃないし~。小さい頃は別のとこにいたよ。」

「そうなのか?」

「君はどこに住んでいたんだい?高木君」


 高木に話を振ったのは、すらりとした出で立ちに、黄色の右眼が特徴的な青年である。右目と同じ色のシャツをはおり、七分のチノパンを履いた若々しい先輩だ。


「俺っすか?俺は生まれも育ちも横浜ですよ。井上先輩はどこです?」

「僕はアメリカだよ。」

「アメリカ!?え、じゃあ英語ペラペラなんです?」


(――他愛もない話だ。)


 勝輝は、会話から目を逸らす。


(どこにでもある様な、話題の切り口に使われる内容だ。

こんなどうでもいい会話をするために、俺はこの人ごみの真ん中に連れてこられたというのか。)


 そう思った瞬間、勝輝の体に疲労が重くのしかかった。


(――早く一人になりたい。

こんなところで、油を売っている余裕はない。

一刻も早く、()()()()()()()()()()()()。)


勝輝の中からあふれだす強い焦燥感が、集中力を欠いた。故に、小平の声に、すぐに反応することが出来なかった。


「――そういえば、吉岡君はどこの出身なのかしら?」

「え?」


 勝輝は一瞬口をつぐんだ。そしてまっすぐ小平を見据えながら、不審がられないようにと素早く答える。


「僕は、生まれは東京ですが、故郷と呼べるところはありません。親が転勤族だったので。」


(――当然嘘だ。確かに東京であることは間違いないが、俺の出生をまともにしゃべってしまったら、()()()()。)


勝輝の言葉を聞いて、小平は隣に立つ茶髪の青年に声をかける。


「あ、そうなんだ。だとすると、状況としては龍也と一緒じゃん。」

「和田先輩も引っ越しが多かったんですか?」


大原の言葉に、和田と呼ばれた男は頭を掻きながら答える。


「あー、いや、俺の場合ちょっと違うかな。引っ越しの理由が、“俺”だったから。」

「?」


 新入部員一同が首を傾げているのを見て、和田はうっすらと髭の映えた頬を緩ませる。


「まあ明日見せるつもりだったんだが、俺の能力はこういうやつでね。」


 彼は右の(てのひら)を前に出し、意識を集中させる。――と、その掌を起点に、たちまち瑞々しい液体が湧き出、渦を巻き始めた。そして勢いよく天井にまで伸びたソレは、シャンデリアをかすめながら和田の頬の下にまで戻ってくる。


「これって――」


 山田が目を見開き、その驚嘆を顕わにする。その瞳は輝きにあふれ、尊敬の念にあふれていた。

 だが、反対に露骨に嫌悪感を表していた人物がいた。彼は怒りと恐怖が入り混じった揺らぐ瞳で、それを見る。


「そう。俺の能力は『召喚能力』。その中でも特異な、『伝承召喚』だ。」


 彼等の目の前には、水でできた、小さな龍が浮いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ