第58話 特秘能力者(27) サイセツの誕生(4)
遅くなりました!
少年は、白い部屋へと戻された。彼は自身がこれからどうなるのかと不安に駆られていたが、その不安を――恐怖を、彼は押し殺そうとしているようだった。
「斗真さん――」
少年は何もない壁にむかって話しかけた。
「ボクは、人間です。誰がなんと言おうと人間――なんです。
身体が崩れ落ちようと、脳がなかろうと、ボクは、人間なんです。
そして、あなたは――あなただけが、ボクを『人間』と認めてくれました。」
少年は震えながら深く息を吐く。
「けれど、もうあなたはこの世にいない。
ボクを人間として認めてくれる人は、この世界にはもういません。
ですが――」
少年は『扉』となる壁をチラリと見やる。
「完全に信用するには足りませんが、あの『フウジン』はボクを人間として認める用意があると言いました。
ボクは、それにかけたい。」
少年は瞳を閉じ、自分に語り掛けるように言う。
「どんなにボクが、自分は人間だと声を張り上げても、世界はそれだけでは認めないと、そう気づきました。
彼等にとって、ボクはモルモットだった。
いくらモルモットが声を張り上げたところで、人間に理解できない鳴き声では、その声は届かない。蚊が顔の周囲を飛び回るくらいの嫌悪にしかとられない。
それは自分の意見こそが正しいのだと、ただ傍若無人に意見をまき散らすことと同じだったのだと、気づきました。」
少年は瞼を開ける。
「だから、ボクは、変わります。
彼らが、ボクを人間と認めるような存在に、なって見せます。
それが、たとえただあるだけでボクを人間として認めてくれた、あなたの思いを、考えを否定することになってしまったとしても――」
少年は天井を見上げ、何かを掴むかのように照明に手をかざす。
「ボクは――強くなりたい。
人間であるために、『理性で感情をコントロールする』という、鋼のような精神を持っていたい。
弱いままの――成長しない召喚体と一緒になんかになりたくない。
だから、ボクは――いや、オレは、今までの弱い自分を捨てて、この特殊部隊に入ります。
あなたの生きた、この特殊部隊という組織に入ります。
いつか、必ず、オレが人間であることを、他の人に認めさせるために。」
彼はまっすぐ正面の壁を睨み付ける。
「オレは、弱かった。その弱さを、ここで捨てる――」
彼は言った。悲痛に顔を歪ませながら。
「まだ、怖いのです。自分が――『吉岡勝輝』ではないんじゃないかと感じることが。
そんなことはない。オレは――絶対に『吉岡勝輝』のはずなんです。
でも、そうではない、そう思う時があって怖くなるんです。
そして、そうやって怖がっている自分がもっと怖い。弱弱しくなって何もかも失ってしまう、そんな気がしてしまうんです。」
彼は唇を噛む。
「だから、だから、オレはその恐怖を、捨てたい。恐怖を抱くままでは、『吉岡勝輝』どころか『人間でいられなくなる』。
そうなったら、あの――召喚体と、一緒になってしまう。
それだけは、それだけは――!どうしても、嫌なんです!
だから、ゴミ箱に!この恐怖を!恐怖を捨てて綺麗に忘れてしまいたい!人間だと、確信したい!
『吉岡勝輝』だと、そう確信したい!そのために――そのために――!」
彼は決意した。
「オレは、特秘能力者として生きていきます。
『吉岡勝輝』であり、『サイセツ』でもある。そう、生きていきます。」
彼は立ち上がり、不安に染まる自分を睨み付ける。
「オレは――『サイセツ』――人間、なんだ……」
こうして、『吉岡勝輝』という人間は、二度死んだ。
読んでいただき、ありがとうございます!
「人間であるために名前を捨てる」はたして、それは――
第一章、最終話数分後に投稿いたします。
そして、評価してくださっている人がいたことに気が付いた!!!!
ありがとうございます!!これからも頑張っていきます!!
(ただ、詳しくは次のあとがきに書きますが、リアルがやばいのでしばらく休載する予定なのです・・・・・・
申し訳ない。)




