第14話 魔王軍の内紛
今回ちょっとだけシリアスなので、次回はその分、まったりした回にするつもりです。まあ、あとでフルボッコにされる敵がフラグ立ててるだけの気もしますが。
月間35位に上がりました! ありがとうございました!
★ドルディアナ王国の内情
ドルディアナ王国の勇者部隊は、王都オルデウスから北東部にあるネイトレット砦を拠点に魔王軍と交戦していた。
ネイトレット砦は春にもかかわらず雪が残るような寒々しい地域だが、ここに魔王軍はかなり以前から主力部隊を投入して攻めたてていた。
勇者部隊はこれをどうにか押さえこむために編成されている。もちろん、部隊がすべて勇者というわけではないが、中心となる戦力は違う世界から連れてきた、通称「勇者」たちである。
率直に言って極めて危険な任務であり、この地に着任した者のうち三割は一年以内に命を落としている。
魔王軍側が戦闘の拠点である砦を築いたりしないように、たまに砦から打って出る必要があるためだ。
戦局は一気に瓦解するというほどではないにしても、じわじわと真綿で首を絞めるように王国側が追いこまれてきていた。
王も何度も慰問に訪れているが、状況が悪いことははっきりと認識しはじめていた。
しかし、その状況が大きく変わる事態が起きた。
魔王軍側の多くの兵が後退していったのだ。
何が起きたのかはわからないが、ネイトレット砦を囲もうとしていた軍隊は突然包囲を解いてしまい、北に消えていった。おそらくヘランダ要塞という北方の拠点に戻るのだろう。
どうにか王国側は息を吹き返したというわけである。ただ、自分たちの努力で追い払ったというにしては様子がおかしいので、素直に喜びづらい者も多かったようだが。
その少し前に、西部のオルドアの森からモンスターたちが姿を消したという報告もあったが、こちらはどうでもいい地域だったので、注目されることもなかった。
◇ ◇ ◇
★魔王軍の動き
オーガの女将軍ナリアルは兵を一度北方のヘランダ要塞にまで退却させた。
ネイトレット砦を攻めた者たちも含めての大規模な撤退だった。
理由は自分が太刀打ちできないまま敗北したからだ。従来の作戦では問題があると考え、一度軍団を引き上げることにしたのだ。
ナリアルは将軍であるから軍隊の指揮権は彼女にある。でなければ、撤退自体が実行に移されるわけがない。
ただし、突然の撤兵ではあるので、当然それを問いただすものが派遣されてきた。
詰問使として、バディアというドレイクがナリアルの元を訪れた。
ドレイクは小型のドラゴンのような種族である。長命なドラゴンの中には人語を解する長老のようなものも存在するが、ドレイクもバディアのように魔族の中で役人をつとめるほどの者もいる。
そのバディアによって要塞の支配権もナリアルから引き継がれることになった。ナリアルは一時的に将軍の権力を剥奪されたような形になる。
「さて、将軍、入られよ」
バディアは入った者の能力を大幅に低下させる結界を事前に張って、ナリアルの名を呼んだ。
これが審問のスタイルなのだ。もし、審問する対象に反逆の意思があっても、それを封じることができる。
ナリアルは臆することもなく、その結果の中に入った。
ここで躊躇すればそれをもって、反逆の意思があると認識されかねない。
「わざわざ遠方までのご足労申し訳ない」
ナリアルはバディアに社交辞令を述べた。
「つまらぬ世辞は抜きにしよう。将軍はなぜ突然に自分の部隊を引き戻された? 無論、戦争には勝ち負けがつきもの。時に戦略的撤退もありうるが、今回はあまりにも不自然すぎる」
バディアが訥々と言葉を接いでいく。
「場合によっては魔王様に伝え、処罰対象とすることもありうるぞ」
「どのみち、撤退がすんだら魔王様のところに報告に向かうつもりだったので、手間が省けました」
ナリアルの表情は覚悟を決めたように固くなっている。
「ほほう。何か深い事情があるようだ」
「オルドアの森の部隊が全滅しました。さらにそのあとで送りこんだ腹心三人も死にしました。私も完敗し、生かされて戻ってきたのです」
言ってしまうと、楽になった。
「はっきりと申し上げましょう。あの森に、我々の理解をはるかに超えた人間のパーティー三人が住んでいます。その対処策が固まらなければ、ネイトレット砦の攻略も意味をなしません。あの三人が来れば、容易に奪還されましょう」
バディアが顔を曇らせた。
「それで、撤兵を決めたと……?」
たった三人の力を恐れて、全軍を引き戻したということになる。
「連中は魔王様に侵略を止めるよう進言しろと申しておりました。このまま侵攻を続けても、連中が邪魔立てにくればその作戦が機能停止するは必定。なので、叱責されるのを覚悟のうえでこのような判断を――」
「もういい!」
バディアが大きな声で叫んだ。もともと、ドレイクの声は相当巨大だが、鼓膜を破りそうな轟音だ。
「たった三人の人間ごときに将軍の部下も将軍も情けなく敗れた挙句、その使者のように魔王様のところに戻って報告するだと? 魔王様の名に傷をつける不敬罪と言わざるをえん!」
「お言葉、ごもっともかと思います。しかし、このナリアル、魔王様への忠義にいつわりはありません。そこで罪をも恐れず、作戦変更の必要性を魔王様に説こうとした次第!」
ナリアルも必死だ。
このまま作戦が続けば大惨事になりかねない。あんな連中がこちらに攻めこんできたら、万に一つも魔王の玉体が傷つけられる恐れすらある。
しかし、ナリアルすらも非常識に聞こえる言葉だ。
とても信じてはもらえない。
「だいたい、お前のような将軍クラスが人間程度にあっさり敗れるなどありえぬこと。何かの狂言であろう。ナリアルよ、人間にたぶらかされたか? それとも洗脳されたか?」
「違う! バディア殿! 私は正気だ!」
「将軍がこのようになったなどとわかれば、味方の士気にもかかわるし、魔王様の名誉も損なわれる。ここで閉じこめておく!」
部屋の周囲から白い煙が吹き出る。
高位のスリープ・マジックだ。相手の昏睡状態にさせ、自由を奪う。
「早く魔王様のお耳に入れないと……本当に危険が……」
懸念を覚えつつもナリアルは言葉を失って、そのまま倒れていった。
詰問使には、謀反が明白な時など、審問対象に深刻な問題があった場合は、魔王の許可なく処刑を行う権限がある。
無論、証拠が不分明であれば、あとで詰問使自体が吊るし上げられる恐れもあるが、今回は将軍を処刑するに足るだろう。
「将軍の乱心――ということで片付けておくか」
吐き捨てるようにバディアは言った。
ナリアルの言った人間の力など当然信じてはいない。
だが、そういう奇妙な人間が存在することまではあながち間違いでもないのだろう。
人間に負けたなどという心証の悪くなるウソをつく必要性がないからだ。
「洗脳されたのなら無意味だろうが、もしその人間がナリアルと実際につながっておるのならば、万に一つぐらいはおびき出すことができるかもしれんな。最低でもナリアルの処刑をもって、魔王軍が愚か者の寄せ集めではないということを連中に証明することはできる」
バディアは妙案を思いついたとばかりに、にやにやと笑った。
「どうせ殺す命だ。せいぜい有効活用してやろう」
神格紹介
★韋駄天スカンダ
前回出てきたのに、紹介し忘れていました……。
とにかく駿足の神格で、作中でも速度アップの効果を持つマントラとして登場。
韋駄天信仰の寺は日本ではあまり知られてないですが、その割に速いという設定だけそこそこ知られていたというのが謎です。
次回はものすごく、まったりした回になります。
次回は本日夜7時更新予定です。




