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異世界魔王の耳に念仏唱えたら俺の嫁になった  作者: 森田季節


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第13話 魔王軍の将軍ナリアル2

 剣戟けんげきの音が森に響き渡る。


 一進一退の攻防だが、お互いに息が上がりかけていた。


 俺のLv自体は王国でもほぼ存在しない次元のはずだ。その俺が疲労を感じるのだから、さすが魔王軍の将軍というだけのことはある。


 でも、今、一進一退なら俺が負けるわけはない。


 表情を見ればわかる。


 ナリアルはほとんど余裕がない。向こうの陣営にはナリアルの代わりをつとめられるだけの兵などいない。

 すでに敵は追い詰められている。


 さて、そろそろ決着をつけるか。


 俺はマントラを唱えはじめ――


 その瞬間、


「ウオアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


 ナリアルがすさまじい咆哮をあげた。


 その声に驚いて詠唱も止まってしまった。


「ふふふ、今のは我が一族に伝わる『魔封じの雄叫び』だ。お前は魔法のために呪文詠唱を試みていたようだが、当分は使用できんぞ!」


 ナリアルがしてやったりという顔になる。


 なるほどな。これで、こちらの打つ手を封じてやったと思ってるわけか。


 相手が魔導士だとしても、これで魔法を封じておいて、自慢の剣でとどめを刺す――これがナリアルの戦い方なのだろう。


 魔法を使わない剣士としては理想的な手順だ。


 ――でも、


「悪いけど、俺の詠唱には効かないと思う」


 なぜなら、マントラの詠唱はこの世界の魔法とは質的に異なるから。


「適当なことを言うな! この雄叫びは耳にした者の力を――」


「なら、試してみるか」


 俺は再びマントラを詠唱する。


「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ」


 これは韋駄天スカンダのマントラだ。


 そして効果は無事に俺の体に宿った。

 突然、体が子供にでも戻ったように軽くなる。


 このマントラの効果はずばり、神のごとき速度を手に入れること。


 今でも足の速い人間を韋駄天と呼んだりするが、その力を使った。


 ちょっと動いてみるか。


「な、なんだ、この加速は……!」


 ナリアルは目で追うのも難しいらしい。


 こっちからは、本当にナリアルの動きが止まっているように見える。


 さてと、あとは決着をつけるだけだな。


 俺はナリアルの剣を払い、


 その体を横に流しておいて、


 自分の剣をナリアルの首元に突きつける。


「これでおしまいだ」


 淡々と言った。


 ――カラン。


 ナリアルが自分の剣を落とした。


 手から力が抜けてしまったんだろう。


 実力が伯仲していては、相手を傷つけてしまう。だから、マントラを使って、瞬間的に俺とナリアルの実力を突き放した。


「なぜ、私の咆哮が効かなかった……?」


「お前の知ってることが世界のすべてってわけじゃないってことだ。少なくとも俺はお前の知らないことを知ってる。それがこの差だ」


 もう、何も出来ないと悟ったのか、ナリアルの体から殺気が抜けていった。


「くっ……殺せ……! 死んでもお前を呪いはせん! 自分の無力を呪うだけだ!」


 まさか、リアルの女騎士の「くっ殺」発言を聞くことになるとは。


 まあ、相手はオーガだから、人間よりオークに近いのかもしれんけど。


「別に命をとるつもりなんてない。お前はもう剣も持ってないし、完全に降伏状態だ。降伏してる敵を殺すのは正義じゃない」


「な、なら……奴隷にでもして愛玩するつもりか? そのうち、寝首を掻いてやるぞ」


 ないない。モンスターを捕らえてそんなことしたら、どっちがモンスターの所業かわからんぞ。

 しかし、魔王軍といっても、ナリアルの態度は剣士として高潔だ。

 だからこそ、伝令役としても信用できる。


「このまま、引き上げてくれ。それで、魔王とやらに伝えろ。恐ろしく強い人間がいるから侵略は不可能だと」


「私が提言した程度で侵攻が止まるわけがない」


 ナリアルが俺をにらみつけてくる。

 現代社会でこんなに睨まれることって普通ないけど、意外と耐えられるもんだな。


「少なくとも、俺を倒せるような作戦が立たないことには侵攻は不可能だろ。無策で来ても俺が止めるからな。だったら、束の間の平和は実現される。ひとまずはそれでいい」


 どうせ降りかかる火の粉を払うなら、これぐらいしたほうが効果的だろうと思った。


 ここでナリアル一行を瞬殺しても、また別の刺客みたいなのがやってくる。そのうち、勝ち目がないとわかっても、すでに出した犠牲が多すぎると引くに引けなくなって、生贄がここに続々と現れることになりかねない。


 魔王軍だって命は惜しいだろう。熟考期間に入るはずだ。


「わかった。貴様の言うとおりにしてやる」


 なかなか潔くナリアルは言った。


「必ず、お前たちを殺す方法を携えて、戻ってきてやるからな」


「うん。また来いよ」


 俺も剣を収める。


 ナリアルは自分の剣を手にすると、ぞろぞろと生き残りを集めて森の奥に消えていた。


「ひとまず、向こうの侵略の見直し程度にはなるだろ」


「ゴーウェンさん、お見事ですわ!」


 ヴィナーヤカがすぐさま抱きついてきた。

 本当にデフォルトが抱擁なだけあるな。

 ちなみにまだ韋駄天スカンダの効力もあるが、回避できる気がしなかった。神格のポテンシャル、パない。


「本格的なゴーウェンさんの戦闘は初めて見ましたけれど、なかなか決まっていましたわ。あれはこの世界の娘さんたちに見せても惚れる方が続出するでしょうね」


「練習期間は短いけどな。シュリに特訓してもらった」


 シュリは智恵に関するほうが得意だが、剣技を教えられる程度のスペックはある。


「基礎はできていたんじゃない? 細かい隙はたくさんあったけど」


「そりゃ、神格に追いつけるとは思ってないさ」


 たしかに即身成仏という概念も、すでにして自分は悟って仏になっているという考え方も、仏教にはある。

 かといって、自分が仏ほどの力を持っていると思いあがったら、おしまいだ。その時点で何もわかってないことと同じだ。


「でも、あなた、これでまた余計なものを背負っちゃったわよ」


「言いたいことはわかるけど、あの将軍を倒しても、それは背負ったしな」


 森一つをモンスターから解放した時点で、目はつけられる。

 仮にあそこでナリアルを殺しても、また次の刺客が絶対に現れる。


 ならば、事態はおかしなことになってるとナリアルに直接連絡させたほうが話はシンプルになるだろう。いったん王国への攻撃の手をゆるめて作戦を練ってくれるかもしれないし、少なくとも、ザコをここに大量投入して無駄死にさせることはなくなるはずだ。


 どちらにしろ、多少は俺たちに平和な時間が続く。


 まだ人間サイドの王国から目をつけられてないだけ、よしとしよう。

次回は明日の昼12時半頃の更新予定です。一応連載開始してから一週間ぐらいまでは一日二回更新の頻度でいこうかなと思います。

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