第12話 魔王軍の将軍ナリアル1
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俺がわかったぐらいだから、シュリもヴィナーヤカもわかったらしい。
俺たちは揃って建物の外に出た。
そこにはそれなりの数のモンスターたちがいる。
数にして、200体弱。
大半は凶暴そうなクマとか、巨大なムカデとか、ボアとか、アルミラージとか、スライムとか、いかにもモンスターって容姿の奴らだ。
この森の敵は全滅させたはずだから、状況の確認に来たってわけか。
「あらあら、こんなにお客さんが来るとは思いませんでしたわ」
ヴィナーヤカは呑気なことを言った。実際、神格からしたら、部屋に羽虫が入ってきたぐらいのインパクトしかないんだろう。
そのモンスターの中から一人の女が前に出てきた。
けっこう露出の多い鎧とマントを羽織っている。
ああ、これが本物の女騎士か。
でも、やけに八重歯がとがってるし、角みたいなのも出てるし、肌も黒っぽいし、おそらくオーガだな。
「私はドルディアナ王国侵攻方面軍の将軍、ナリアルである。この森の同胞を皆殺しにしたのはお前たちか?」
ついに将軍が来たか。
やはり将軍クラスは人間と大差ないな。モンスターというより異国人ぐらいの印象だ。
サーチ・アビリティで調べてみるか。
ぼそぼそと詠唱をして、魔法を唱える。
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ナリアル
Lv51
職 業:剣士
体 力: 765
魔 力: 631
攻撃力: 846
防御力: 881
素早さ:1029
知 力: 387
技 能:二刀流・刺突・剣舞・鎧斬り・オーガ流格闘術・魔封じの雄叫び
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俺と大差ないLvだな。
ただ、ステータス的には俺のほうが良くも悪くもオールマイティだ。
向こうは攻撃力と防御力・素早さが高い。見事な肉弾戦特化タイプだな。
ただ、正直言って、俺と同じぐらいだったら、何も怖くなどない。
俺はマントラという最強を魔法を使えるけど、ステータス的にはパーティ最弱なのだから。
これならシュリでもあっさり倒せるな。
「おい、何か言ったらどうだ!」
返答に応じないまま黙りこんでいたから怒られた。
「あんたの仲間を倒したのは事実だけどさ、自分で侵攻方面軍って言っただろ。侵略者なんだから殺されるリスクも背負ってしかるべきだろ」
「お前たちは王国所属の軍隊か?」
「いや、王国とは何のつながりもない。もしかすると王国の敵かもしれない」
ナリアルという敵はぽかんとした顔になった。
そりゃ、意味不明か。
「とにかく、こっちはお前たちが引くって言うなら無理な攻撃はしない。はっきり言って俺たちは強いからやめてるほうがいいぞ」
絶対聞くわけないと思ったけど、一応断っておいた。
これまで見てきたモンスターの中で唯一の交渉可能性ある敵だしな。
「ふん! よくわからんが、お前らの首を同胞の墓に手向けてやるわ!」
やっぱり交渉決裂か。
「ゴーウェンさん、ここはわたくしが力をお見せしますわ」
いまだにのほほんとした空気のヴィナーヤカが言った。
「わかった。ただ、あの将軍は生かしておいてくれ」
こう、見た目が人間だと殺す時の抵抗が跳ね上がるし、魔王軍側にこのまま戦っても無駄だと報告させるためにも、残しておいたほうがいい。
「はいはい。おやさしいんですのね」
ヴィナーヤカの手に、輪っか状の刃物が現れる。
輪の真ん中に中心部を通るように十字の取っ手がある。輪の真ん中を握り締めて戦う武器だ。
「ああ、十字バジラか」
「さすがお詳しいですわね」
「これでも半年だけ僧侶だったからな。輪宝っていう法具の本来の姿だ」
仏教で使われている道具の一部は古代のインド武器までさかのぼることができる。
たんなる輪っかに見える道具も実は原型は凶悪な殺傷兵器だなんてことが普通にある。
「では、まいります!」
ヴィナーヤカがウェーブした長い髪をはためかせながら飛んだ。
あとは踊るように、モンスターの中に突っこんでいく。
そして、彼女だけじゃなく、その手の十字バジラも踊る。
そのたびにモンスターの血が跳ね、次々に倒れていく。
ムカデが半分になり、凶暴なクマの首が飛び、オッドアイの触手が飛び散る。
おそらく、ヴィナーヤカ的には戦闘を発生させる必要すらないのだろうけど、意図的に戦闘にしてあげてやってるんだろうな。
一秒後に相手が消滅してるだなんて光景を見せても、かえって実力差が理解できないだろうから。
「な、何をしている! 早くその女を倒せ!」
向こうの将軍も困惑してるらしい。
一見、武器なんて持ったこともなさそうな女一人に味方が壊滅してるんだからな。
俺から見て将軍の右側の敵がほぼ全滅した。
左側のほうはあまりにも圧倒的なので、何かがおかしいと気づきだした。
逃げ出そうとする奴もいたが、その前にヴィナーヤカに斬り殺された。
女将軍も戦闘に参加しようとするが、この攻撃はたくみに避ける。
「はい、こんなところですわね」
ヴィナーヤカがこちらに戻ってくる。
女将軍が気づいた時には、半数ほどのモンスターが魔石を出して斃れていた。
「こ、こんなことが……」
どうやらまだ状況が理解できないらしい。
厳密には理解したくないってところだろうな。
俺だって逆の立場だったらそうなる。おそらく、経験したことのない強さのものと対峙しているんだろう。
「悪いけど、これがこっちの実力なんだ。王国の領土に攻めこむのは無駄だと考えてほしい」
「わ、私にも将軍としてのプライドがある!」
女将軍のナリアルが斬りかかってきた。
「ヴィナーヤカ、シュリ、ここは俺にやらせてくれ」
あえてそう言った。
おそらく、俺とこいつは互角。
戦闘が長引けば話し合いの余地も生まれるかもしれない。
「いいけど本当に危なそうだったら、助けるからね。少なくともあなたは悪じゃないから」
「もう、素直に俺が心配だって言えよ」
こいつ、絶対世話焼き系のツンデレだ。
「余計なこと言わないの!」
俺も剣を持って、ナリアルのほうに踏み出す。
やはり敵のほうが素早い。
だが、こちらもステータスだけなら、ひけもとらない。
どうにか回避して戦う。
「お前もかなり高名な剣士らしいな。まさか、王国にこんな者が隠れていたとはな!」
だから王国の人間じゃないって。
チートなしでもけっこう戦えるようになってきたけど、相手を降伏させるには結局、圧倒的な力がいるな。
次回は夜7時の更新を予定しています。オーガの女騎士との対決後半戦!




