第16話 午後の授業ってどうしてあんなに眠いんだろうね!
途中の『』は手紙のやり取りです
ラノベやアニメではあまり語られることのない授業中。それは何故だろうか、答えは至極簡単である。つまらないからだ。ただ延々と教師が教科書を黒板に写していく、それを僕達生徒はノートに書き写す、そんな単純作業。これなら黒板を見ないで、教科書を写した方が早いんじゃないかとさえ思う、周りを見ると寝ているクラスメイトも数名いる、そんな授業風景。
朝のホームルームの後、襲いかかってきた真野に悠とルーナが「空君をいぢめる奴はこのボク天野原悠が許さないよ!」「お兄ちゃんに手を出す方はこのルーナがぶちのめしてあげます!」と言ってくれたおかげで真野は「くっ、空、覚えてろよ!」と捨て台詞を残し自分の席へ戻っていった。そんなこんなでただいま授業中。科目は数学、僕の最も苦手としている教科だ。嫌いな教科だと自然と眠気が襲ってくるわけで、僕は夢の世界へと旅立とうとしていた、その時だった。
「ふうぇわ!?」
何かが僕の頭に当たった、紙だ
「どうした東雲、答えたいのかこの問題」
寝ようとしていたところにいきなり刺激がやってきたもので、僕の口からは素っ頓狂な声が出てしまった。それを聞いた数学教師三十七歳男性独身は僕に問題を解けと言ってきた、そんな不可能だ……ていうか、今何ページやってんのさ。
「え、えーと……」
僕が答えあぐねていると隣から「空君、空君」と小さな声が聞こえる。
「答えは『ふん、そんな楽な問題この僕が答えるまでもない、隣の可愛いお嬢さんにでも答えさせてあげたらいかがでしょう』だよ」
「ふん、そんな楽な問題この僕が答えるまでもない、隣の可愛いお嬢さんにでも答えさせてあげたらいかがでしょう」
隣から聞こえてきた答え(?)を復唱すると先生は
「そうか、なら後でお前にはもっと難しい問題を答えさせてやる、隣の天野原答えてみなさい」
悠は答えを即答、もちろん合っていた。
「空君、開いて開いて」
どうやら紙を投げたのは悠らしい、綺麗に折りたたまれた正方形の紙の表紙には『重要機密』と綺麗な文字で書かれていた。
そんな大切な情報が書かれた紙を投げるのはどうかと思うが、僕は言われた通りにそれを開いた。
『授業つまんないから、手紙でも回そうよ♪』
……たしかに重要機密だけどね! 先生に見つかったら怒られる程度の機密じゃないか! どんなだよ、慎重に開いて損したわ!
隣を見ると悠がにこにこと笑みを浮かべている、うん可愛い。
さて、なんと返したものか……。
『いいよ! お題は?』
『もうすぐってほどじゃないんだけどさ、五月六日って何の日だか覚えてる?』
五月六日……、ゴールデンウィーク明けとしか覚えてない、いや、そう言えば今朝奏音ちゃんが。
『奏音ちゃんの誕生日か!』
『そうそう、良く覚えてたね! ちなみにボクの誕生日はきゅーとの日だよ』
この姉妹は揃って……、性格が少し似ている。
『うん知ってる、今朝奏音ちゃんからきいたよ』
『と、まぁ。ボクの誕生日はどうでもいいんだよ、姉としてはさ、祝ってあげたいんだ。みんなでパーティーでもしたいなぁって思ったんだけど、どうかな?』
あぁ、なるほど。
『じゃあ、せっかくだし美佳の誕生日も一緒に祝っちゃおうよ、五月三日なんだ』
『おぉ、近いんだね! いいね、いいね! 今度ルーナちゃんと三人でプレゼント買いにいこっか♪』
『そうだね! ちょうどよかった、僕一人じゃ何買っていいかわからなかったし助かるよ!』
「いてっ!」
後頭部に何かが刺さった、下を見ると紙飛行機が落ちている。
「よーし、東雲ちょうどいい、この問題解いてみろ」
うわ、誰だよ紙飛行機投げたの!
「2<k<3だよ空君」と小声で悠が教えてくれる
「2<k<3」
僕が悠に言われたとおりに答えると、先生は残念そうな顔をした
「正解だ」
助かった……。僕は落ちている紙飛行機を手に取り、開いてみる
『お兄ちゃん! 授業中に手紙回しちゃだめですよ! なんでダメかわかりますか? もちろん私もしたいのに、席が離れていてできないからです!』
なんて自分勝手な注意だ……。ていうか、教室の反対側から僕の頭に当てたのか、なんてコントロール。
ルーナの方を見ると怒ったようにツーサイドアップをぴょんぴょん振り回している、隣の席の子の教科書が風でめくれて迷惑そうだ……。
そこで授業終了のチャイムが鳴った。礼を終え、先生が出ていくとルーナが飛んできた。
「お! に! い! ちゃ! ん!」
「な? ん? で? しょ? う?」
「授業中に手紙回すとか、どこの不良さんですか! 私はそんなお兄ちゃんに育てた覚えありませんよ!」
「僕もルーナに育てられた覚えはないかな!」
「ごめんねルーナちゃん、空君は悪くないんだ、ボクがしようって言ったの」
ルーナの表情がムスッとしたものに変わる。怒りたいけど怒れない、それに怒りを感じているようなそんな表情、あぁややこしい。
「ま、まぁ。悠ちゃんがそういうなら……、いいですけど。お昼御飯は一緒に食べましょうね!」
それからの授業はノートに絵を描いたりして真面目に受けた、数学以外の授業は寝ない僕なのだ
「それって真面目に受けてないよね空君」
そう突っ込みをもらったのが今、昼休だ。僕たちは食堂で昼食を食べている。
「お兄ちゃん! あーん」
ルーナが自分の弁当から卵焼きを食べさせようとする。そもそもルーナの弁当は僕の母が作っているので、弁当の内容は僕と同じ。交換もしなければ、食べさせてもらう必要もない。それにここは食堂、周りの目が痛い、針のように鋭い視線が僕を突き刺す。
「いいなぁー、俺もルーナさんに食べさせてもらいたいなぁ。それを断るバカ野郎なんて死ねばいいのになぁ、死なないかなぁ……」
そう物騒な事を宣うのは一応僕の親友、真野である。
「ルーナ、僕はいいから真野に食べさせてあげてくれないか?」
「ナイス親友! 生きろ!」
一瞬で手のひらを返す僕の親友……
「えぇー、いやだよぉ……」
心底嫌そうに言うルーナ
「そ、そんなこと言わずに、な?」
それでも僕はルーナの説得をする、真野はまだかまだかと口をあけている。言っちゃ悪いが間抜け面だ。
「むぅ、お兄ちゃんがそういうなら……」
そう言って立ち上がるルーナ
「どこ行くんだよ?」
「ちょっと待ってて下さい、真野君は口開けたままでお願いします」
すぐに戻ってきたルーナ、手にはトングが握られていた。
「はい真野さん、入れますよ」
食べさせてあげると言うよりは、放り込んであげるみたいな感じだ。そんなに嫌なのかルーナ、さすがに真野がかわいそうじゃないか……。
それでも放り込んでもらった真野は嬉しそうにしていた。
「はい、お兄ちゃん。お兄ちゃんのお願いを聞いたんですから、私の願いも聞いてもらえますよね!」
なるほど、そうきたか……。
「私にも食べさせて下さい! あーん!」
言いながら小さく口を開けるルーナ、なんか昨日も似たような事をした覚えがあるんですけど……。
「空君、次ボクもお願いね♪」
笑顔で言う悠、なんだかなぁ、逆らえないよ……。
二人に食べさせてあげた後、会話を楽しみながら食事をしていると声を掛けられた。
「おぉ、やっぱりここにいたか。教室にいなかったからここかなぁって」
食堂の中、一人金色に輝く髪を持つ美少女、奏音ちゃんだ。今日は彼女が入学して二日目、初めて見る人の方が多いのだろう。食堂にいる人の口から男女問わず感嘆の声が漏れる。そもそもここは日本の普通の高校なので、金髪や銀髪はかなり珍しい、校則も厳しめなので染めるようなやつもいない。そんな中で黒以外の髪を見たら誰だって珍しがるだろう。そんな視線を特に気にした様子もない奏音ちゃん、なんというか、さすがだ。
「こんにちは! 東雲先輩! 天野原先輩! ルーナ先輩!」
奏音ちゃんの後ろには真奈ちゃんもいた。決して、決して影が薄かったとかそういうわけじゃない、奏音ちゃんが目立ち過ぎていたのだ。
「うん、こんにちは」
「おぉ、君は昨日の金髪美少女、空の知り合いか?」
そういえば昨日真野は奏音ちゃんに会っていた、その直後僕の記憶は飛んでいるわけだが
「どなたかと思えば、昨日の赤鬼さんじゃないか。ワタシは天野原奏音といいます、よろしくお願いします」
奏音ちゃんは礼儀正しく自己紹介をする、いい子だ。
「天野原?」
「うん、ボクの妹だよ♪」
悠が説明すると真野は特にためらう様子もなく
「なるほど、どおりで可愛いわけだ」
「ひゃう!?」
奏音ちゃんは変な声を出して赤くなる。
「俺は真野慎一、よろしく。どうしたのかな?」
真野は後輩に優しい、中学の時もそうだった。
「い、いや。可愛いだなんて、滅多に言われないから……」
ほう、百人に聞いたら百一人が可愛いって言うくらい可愛いと思うのになぁ
「空君、一人増えちゃってるよ、幽霊さん混じってる」
「いや、これは例えでさ――って、だからなんで僕の心の声に突っ込むんだよ悠」
悠はえへへと笑って
「奏音ってほら、髪の毛金色じゃん。だから周りの子は話しかけにくいみたいで、ちょっと浮いちゃってるみたい? うん、そんな感じかな」
「なるほど……、たしかに金髪でこんなに可愛かったら話しかけにくいな」
「うひゃう! や、やめてくれ先輩、その……恥ずかしい……」
こんな奏音ちゃんはなかなか珍しいかもしれない、照れてる姿も可愛らしい。
「そういえば東雲先輩! 私友達が出来たんです! 今度紹介しますね!」
目を輝かせながら自慢する真奈ちゃん、紹介してどうするつもりだろう……、僕は友達が少ないとでも思われているのだろうか、たしかに多くはないけど人並だと思うんだけどなぁ。後輩にまで心配されるとか、なんだか悲しくなってきちゃったよ!
「やっぱり出来たでしょ?」
「はい! なかなか面白い子です」
昼食を終え、自分のクラスへ戻り僕は午後の睡魔もとい授業と闘うのであった。