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ツッコミはある日突然に  作者: ついしょ
第二章 ツッコミはある日突然に2
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第11話 温泉と言ったらやっぱりこれでしょ

 風呂を出た僕はちょっとした広間に設置されたソファーに腰を下ろし、悠達を待っていた。目の前ではちびっ子男女が卓球のラケットとボールで新たなスポーツを確立しようと奮闘している。さすがにこんな歳の子供に「リア充爆発しろ」なんて言う人はいないだろう。いや、今の話しは無し(平仮名で文にするとちょっと面白いかも)にしよう、僕の生命に危機が訪れる。彼等は卓球台を無視しバドミントンよろしくボールを打ちあったり、それに飽きたのか、ラケットの持ち手でボールを打ち、「ホームラーン!」「いや、今のはだんくしゅーとだよぉ」などとわけのわからない会話を繰り広げていたりしている。

 僕がそれをにこやかに見ていると不意に声をかけられた。

「おっ東雲君じゃん、偶然だね。小さい子供が可愛いのはわかるけど、あんまりニヤニヤしてると捕まっちゃうかも知れないから気をつけた方がいいよ」

 視点を声のした方に向けると、長身の女の子、いや、女性と言った方がいいのかな? とりあえず女の子が僕を見下ろしていた。あくまでこれは僕が小さいからではない、座っているからだ。

「あ、五條さんじゃないっすか。おひさしぶりゃーす」

「どうしたのかな東雲君、キャラが崩れてるよ?」

「こんばんは五條さん、今夜の月は綺麗だね、でもそんな月なんかより君の方がもっと――」

「うん、今外曇ってるから月見えないからね」

「冗談はこの辺にして、久しぶり五條さん。ホント偶然だね」

「ああ東雲君、本当に久しぶりだ。君が彼女と遊園地にデートをするために着て行く服を私がバイトをしている洋服屋に買いに来て以来だ」

「うん、つい数週間前のことなのにやたらと長く感じるね」

「ホントだよ、つい説明っぽくなってしまった。誰だ五條って、でてきたか? とか言われそうで悲しいな。あの時は君の言葉を鵜呑みにしたが、今思えば彼女が出来たっていうのも真実かどうか怪しいところだよ……」

「いや、本当だよ……。そのうち出てくるから待ってれば?」

「そのうち出て来るってまさか、一緒に来てるの!?」

「ああ、うん。今日母が少しミスって家の風呂が使えないから温泉に来たんだ」

「な!? しかも同居!? ていうか、一緒に風呂入ったりするの?」

 かなり驚いた顔をする五條さん。

「いやいや、一緒には入らないよ!? 今日はただちょっと色々あって泊るってだけ」

「なるほどね、まぁ納得はしかねるけど。私は別にいいや。風呂に入ってくるとするよ」

 案外気にした様子もなく女湯へと向かう五條さんの背中に声をかける。

「もし五條さんが出た時に僕がまだいたら、この前した約束のジュースおごるから!」

 五條さんは少し驚いた顔をして「まだ覚えてたんだ、以外だね」といって、手を振って女湯へと消えていった。

 五條さんと入れ替わりで悠が出てきた。

「空君お待たせ~。今ね、すれ違った背の高い女の子がボクの方を見て『この子もしかして東雲君の? いや、さすがにこんな可愛い子はあり得ないか』ってぼそぼそ言ってたけど、なんか知ってる?」

「ん、あぁ。その子中学の時の同級生で、同じ部活だったんだ、今ちょっと話してた。ところで美佳とかルーナとか奏音ちゃんは?」

 悠は僕の隣に腰をおろし、答えた。

「あれだね、ボクはほら髪そんなに長くないから」

 ああなるほど。ほかのみんなは髪を乾かしているといったところか。

「髪長い子は大変だよね、奏音を見てるといつも思うよ」

「僕は男だしよく分からないけど、渇くのに時間がかかるってことはわかるかな。ところで悠もちゃんと乾いてないみたいだけど?」

 悠は「えっ」と俯き少し顔を赤らめて言う

「だって、ほら。空君に早く会いたかったから……」

 僕の心臓の鼓動が速くなるのが分かる。なんだこれ、破壊力ハンパないぞ!? か、可愛い!

「そ、そそそ、そうか! 僕も早く会いたかったよ!!」

 照れながらも僕は自分の鞄から未使用の(ここ重要)タオルを引っ張り出し

「悠、ほら後ろ向いて」

「え!? 空君。拭いてくれるの?」

 後ろを向いた悠の髪を丁寧に、僕のできる限りの優しさで拭く。

「ど、どうかな?」

「うん、気持ちいいよ。えへへぇ、幸せだな~」

 悠のつややかな髪はとても魅力的で、こんな髪を拭けるとはなんとも光栄な話である。

 僕が髪を拭き大体渇いたところでルーナ達も出てきた。

「ちょちょちょちょっとお兄ちゃん!? なんで悠ちゃんの髪を拭いているの!?」

「い、いや。これはっ」

「ずるいずるいずるーい! 私も! 私も拭いてお兄ちゃん!」

 こんな感じで結局ルーナの銀髪も拭き(ほとんど乾いていたが)奏音ちゃんにも「ついでにワタシのもお願いしようかな」と言われ、今日だけで僕は黒、銀、金と三色の髪の毛を拭かせて頂いたわけだった。


 僕達の前で卓球のラケットとボールを使い、わけのわからんスポーツを繰り広げていたちびっこが飽きて、どこかへと走って行ったとき、悠が口を開いた。

「ふふふ、空君。せっかく卓球があるんだし、ちょっとやらない?」

 彼女の笑顔の裏には何かが隠されている気がする。言葉のイントネーションからは自信がうかがえた。強いのか、悠?

 僕が答える前に、美佳が焦った様子で言う

「ちょっと待って悠さん! 兄さんとは卓球しない方がいいかもしれない!」

 悠は「どうして?」といった表情で首を傾げ、きょとんとしている。可愛い。

「あのね悠さん。兄ちゃんめっちゃ卓球強いんだ……。小学校の時、兄ちゃんと卓球して転校しちゃった子だっているくらい……」

 そんな事もあったなぁ……。「全力で来い」なんて言うから、全力でやったらストレート勝ち。その後その子は泣いて帰って、その夜担任からうちに電話が掛かってきて……、まあいいや、昔の話しだ。彼には悪いことをした、今どうしてるかなぁ?

「うーん、でも空君が小学生の時の話しでしょ? 今はどうかわからないよ?」

「いや悠さん。むしろ悪化しちゃったんだ……、縄跳びを持たせれば4重跳びをやってのけ、バスケをやらせたらダンクショートとかね」

「へぇ、凄ーい。空君運動神経いいんだね」

「うー、まあ比較的?」

「じゃあしよっか♪」

 何が「じゃあ」なのかは分からないが、ラケットを僕に渡す悠。僕はそれを受け取り位置に着く。

「大丈夫だ美佳、さすがに女の子に、しかも僕の大切な子に本気なんか出したりしないよ」

「ま、まぁそうだね兄ちゃん」

「ふふふ空君。大切な子って言われたのはとっても嬉しいけど、本気で来ないと死んじゃうかもだよ?」

 やはりどこか強気な悠、ここまで自信満々な悠は珍しいかもしれない。でも卓球じゃ死なないだろ……。

「悠からでいいよ」

「うん、ありがと」

 サーブ権は悠に譲る、レディーファーストだ。

 座って見ている奏音ちゃんはやれやれと言った表情で、ルーナは「お兄ちゃん頑張ってー」と、応援してくれている。美佳はジュースを買いに行った。

 悠はボールを台でトントンと跳ねさせ感触を確かめている。

「じゃあ行くよ空君」

「よしこい」

 悠はルールに則り、しっかりと手のひらにボールがあることを示し、上に投げそして――

 ボールは消えていた。僕が認識できたのは頬の隣をものすごい速さで何かが通り過ぎた風、そして遅れて聞こえてくるトントンと言うボールが跳ねた音だけだった。

「なっ!?」

 後ろを見ると何かが壁に当たったと思われる軽いへこみと、その下にはボールが転がっている

「まさか!?」

 このへこみを卓球のボールが?

「どうかな空君、あんまりボクをナメてると、痛い目見るよ?」

 どうやら悠の言う「死んじゃうよ?」もあながち冗談ではないようだ。久しぶりに本気を出せるというものだ、この高揚感、たまらないぜ! うわ、なんかバトルマンガみたいなこと言っちゃった……

「さぁ、続きだ悠。来い!」

 さっきと同様にしてボールを投げ打ちだした悠。さっきは油断していたせいで全く見えなかったが、今回はそんなことはなかった。打ち出された球は悠側のネット付近で落ちると、僕側のエンドラインぎりぎりのところまで飛んできた。しかも跳ねた瞬間にボールは方向を変え、おかしな方向へと飛んでいった。どんな回転をかけているんだ……。

「お兄ちゃーん、つまんないよー。ボール打ってよー」

 外野のルーナが文句を言うが、僕はただ見逃したわけではない。今のでだいたい理解した。次は当てる。

 次に悠の放ったボールを僕はタイミングを合わせ返すが、ネットに阻まれる。

「えっ!? そんな……。本当に強いんだね空君、ボクのサーブに触ったのは空君が初めてだよ」

 なるほど、たしかに素人はこんなサーブ、触るどころか見ることも難しいかもしれない。かく言う僕も素人なわけなのだが。

「あぁ、悠。次はそっちに返すよ」

 悠は「できるかなっ!」と言いながらボールを打ちだす。

 ボールに掛かった回転を読み、僕もそれと同じ方向にさらに回転を掛け悠の方へと返す。もともと掛かっていた回転に僕が上乗せすることでボールは跳ねることなく、真横に転がっていった。

「まさか、そんな。回転を……読んだの?」悠は驚愕の表情を浮かべながら言った。

「うん、勝負はこれからだよ?」

「そうだねっ!」

 どこかの王子様のような技をテーブルテニスで使いながら激闘を繰り広げる。運動量も半端なく自然と汗が出るわけで、いい加減やめないかと言うことになり結果は出ず、引き分けと言うことになった。

「はぁはぁ、お疲れ空君。汗かいちゃったよ……」

「へぇはぁ、そうだねもっかい風呂入らないとだね……」

 気が付くと周りには人だかりができていて拍手を送ってくれていた。僕達はその拍手を背中に受けながら、女湯、男湯へと別れたのだった。


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