第12話 胸の大きさなんて気にするな!
僕はちゃちゃっと汗を流し、早めに風呂場を後にした。
待っていたルーナ達のところへ行くと美佳にウーロン茶を渡される
「はい兄ちゃん」
「おっ、ありがとう」
さすが妹、僕の好みをよく理解している。
「悠は?」
「兄さーん、女の子は色々時間がかかるんだよ。色々、ね」
「その『色々』が、髪を乾かす以外に思い当たらないのは置いといて、まだってことね、了解」
目の前ではルーナと奏音ちゃんがぽてぽてと卓球ごっこをしている。さっき僕達がしていた卓球に比べれば『ごっこ』にしか見えないだろう。
ボールを打つたびにさらさらとなびく金色と銀色の髪
「本当にルーナ達は髪が綺麗だなぁ……」
僕が思わず言った瞬間、それを聞いたルーナは先ほどまでとは桁違いのスマッシュを放った。
「ひゃっ!?」
それを受けた奏音ちゃんのラケットは吹き飛び、口からは可愛らしい声。
「お兄ちゃん今なんて言いました!? お兄ちゃん今なんて言ったっ!?」
「わっ、悪いルーナ。ついっ!」
あまりのルーナの迫力に、反射的に謝ってしまう僕
「ううん、違うの! すっごい嬉しいのっ!」
抱きついてきたルーナの比較的豊かな双丘が、座っている僕の顔に押しつけられる
「ちょっ、うがっ、やめ! ルーナ離れっ!」
わかってる、決して嫌じゃない、そんなこと分かってるんだ。女性の胸が好きじゃないやつなんていない、だって男の子だもん! もし好きじゃないやつがいたらそいつは天然記念物だ、いや人間国宝にしてやってもいい、はたまた、世界遺産に登録してもいいかもしれない。
僕の呼吸を妨げる大き過ぎず、かといって小さくもない胸。これは理想の大きさと言ってもいいかもしれない。控えめなのが好きな僕をも魅了するルーナの胸。この胸にも小さかった頃があったのだと思うと、なんだかとっても愛おしくなってくる。昔はあんなに小さかったのに、こんなにも育って、みたいな親のような感情だ、ただ純粋な愛おしさ。小さい頃を知っているわけではないのだけど……。
僕はルーナの肩を押し離れさせ、手を伸ばす。「なぁに?」と言いたげな表情で首をかしげているルーナの、その胸に。
「東雲君? 君はいったい何をする気なのかな?」
不意にかけられる声に僕は我に返る。
「っ!? 僕は、僕はいったい今なにをしようとした!?」
「私から見た限りでは、右も左もわからない外人さんに『日本では胸を触るのがあいさつみたいなものなんだぜ、ぐへへ』と嘘をついて、その美しい身体を欲望のままに穢そうとしている最低な男子高校生の図に見えたけど?」
「ちゃう! 僕はそんなことしない! ありえない! ちが、違うんだ!! でも過ちを犯そうとしていたのは本当かもしれない、す、済まないルーナ。僕は……」
「私はいいよお兄ちゃん? お兄ちゃんになら……。だからそんな悲しそうな顔をしないで!」
「ほう、東雲君は……って、お兄ちゃん!? 東雲君は美佳ちゃん以外に妹がいたのか!? ていうか、外国人!?」
アブナイ僕に声をかけて止めてくれたのはお風呂上がりの五條さんだった、その後ろには悠がいる。
「違うよ瑞穂ちゃん、ルーナちゃんは空君の妹じゃない、クラスメイトだよ?」
「あ、悠。お疲れー、ところで瑞穂ちゃんって……だれ?」
「私だ私! 東雲君、同じ中学だったと言うのに、私の名前知らなかったのか!? 私の名前は五條瑞穂だよ」
そ、そうなのか! いつも五條さんって呼んでたから、下の名前は……、うん、ごめんなさい。
「ところで、悠はなんで五條さんのこと知ってるの?」
「さっき空君に話したでしょ、背の高い人がって。それでね、お風呂で会ったからあいさつをしたの」
さすが対人スキルの高い悠、初対面の人にも普通に声をかけられたというわけだ。
「東雲君、こんなに可愛い彼女どうやって捕まえたんだよ? なんか弱味でも握ったのかい?」
なんてこと言いやがる五條さん、悠が可愛いのはその通りなのだけど……。
その悠は何故だか僕と少し距離を置き、もじもじしているように見える。気のせいかな?
「いや、そんなことはないからね! たしかに色々ありはしたけど、そういうのじゃないから!」
僕が言ってもなかなか首を縦に振らない五條さんにできる限りのところまで話し、納得してもらい、約束のジュースをおごった後もう少しのんびりして行くと言う彼女と別れ、ルーナの剛速球に腰を抜かした奏音ちゃんを背負い、「ずるいずるい!」と騒ぐルーナを静かにさせ、さぁ帰ろうと言ったところで悠まで「いいなぁ」なんて可愛いことを物欲しげに言いだすものだから、もう後先考えず「今日は一緒に寝ようね!」なんて言ってしまい、今夜は眠れないぜ!(ドキドキして)状態を自ら作ってしまったのが今、自宅の前に立っている僕だ。
「す、済まない先輩。お世話になってしまって。もう大丈夫だ、ありがとうございました」
「いや、お礼を言うのはこっちの方だよ、ありがとう」
奏音ちゃんは何故自分が感謝されたのか分かっていない様子。そのわずかに膨らんだ胸が背中に当たって帰り道が天国だったと、あえて言う必要はないだろう。
「いや、ホントよかったよ。慎乳最高!」
「先輩っ? まさかワタシのねーさん譲りのあってないような胸の感触を楽しんでたのか!?」
「え!? なんでわかったの!?」
「兄さん、心の声は心の中で言うから心の声なんだよ? ハートヴォイス」
「なっ!? 声に、出てたのか……」
抑えきれない慎乳への想いがどうやら口から声となって溢れ出てしまっていたらしい。気をつけねば!
「ところで奏音?」
悠が僕から降りた奏音ちゃんに笑顔を向けている。いつもの笑顔とは少し違う、なんだか迫力があるというか、怖いというか……
「ん? どうしたねーさん、そんなににっこりして」
奏音ちゃんはその笑顔の裏に隠された怒りに気づいていないのか!?
「ボク譲りのあってないような胸って、どういうことかなぁ?」
悠は依然として笑顔を保ってはいるものの、その目には光がない。これは辺りが暗いからではないはずだ、不思議と温度も下がっている気がする。
「あっ!」
奏音ちゃんはやっと気付いたようだ、口を押さえながら震えている。
「おねーちゃんの胸、そんなにないのかなぁ?」
怖い! 怖いよ! 声があまりに平坦なんだよ! 僕は学んだ、悠の胸には触れてはいけない、いろんな意味で!
ルーナなんて頭を抱え、端っこで縮こまっている。美佳は……家に入っていった。
「おい美佳! 逃げんな!」
そう言って僕も家の中に逃げ込もうとするとバシッと凄まじい速さで腕を掴まれた。
「ひっ!?」
「空君、どこ行くの? 空君にもお話はあるんだよ?」
なんてこった、笑顔で首をかしげている悠を見て、いつもなら可愛いと思うのに、今は恐怖しか覚えないよ!?
「わわわ、悪かったねーさん。いや、おねーちゃん!」
なんでか呼び方を変えた奏音ちゃん
「こ、こんなときばっかりそんな呼び方して!」
あれ? 言葉に少し強弱が生まれた
「ごめんなさいでしたおねーちゃん!」
「ま、まぁ。うん、いいよ? 別に気にしてないしね、胸の大きさなんて?」
なんだなんだ? いきなり怒りが収まったぞ? ていうか、明らか嘘だろ、すっごい気にしてたじゃん! 声には出さないよ? ハートヴォイス
「奏音、ルーナちゃん連れて先に空君の家に入っててくれるかな。僕はこれから空君と二人でお話があるから」
「イェス・マイシスター!」と左胸の前で右手の拳を握る奏音ちゃん。
「僕のターンはまだ終わってないぜっ!?」
奏音ちゃんはルーナを連れて「終わってないって言うか、これから始まるんじゃないですかね?」と言って家に入っていった。
さぁ決闘開始! 僕には勝てる気がこれっぽっちもないのだけれど!
「空君……」
「はい! なんでありましょう悠さん!」
つい敬語になってしまう僕
「悠って呼んで!」
即座に訂正が入る
「はい! なんでありまほしかりける悠!」
「む、古典はわからないよ! 日本語でおけ!」
まぁ、古典は外国語とか言われることもあるけど、一応日本語ではあるよね? 一応。
「うん、まぁ、そうだね。実は僕もよくわかって言ってないから」
悠はすぅっと息を吸い、胸に手を当て心を落ちつけている様子。そして口を開く。
「いくら小さくたってね、さすがに高校に入ったばかりの奏音よりは大きいんだから!」
「身長? 見ればわかるよ?」
「胸っ!」といいながら僕の胸に飛び込んで来る悠、たしかにわずかだが奏音ちゃんより大きい気がする……って、え!? いや、とっても嬉しいんだけど、気持ちいんだけど、え!?
お風呂上がりの悠からはシャンプーの良い香りがするし、胸にはぷにっという擬音語がぴったりな柔らかい感触があるし……、ちょちょちょ、さすがに柔らかすぎる気がする! 僕と悠の間にある布はおそらく5枚(内 僕2枚。悠2枚プラス下着1枚)だがこの柔らかさは異常だ、まさか、つけてない? いきなりの事態に僕が混乱していると、悠は抱きついたまま顔を上げ
「奏音よりは……あるでしょ?」
僕より背の低い悠が抱きついて見上げると自然と上目遣いになるわけで、恥ずかしさなのかはわからないが、頬は少し上気しているわけで! なんだかとっても破壊力が高い! 可愛い! 僕の生命点数(英語で)はもうゼロよ!
天使のような顔をよく見ると、目には少し涙が浮かんでいる。
「その、ね。空君はやっぱり男の子だし、小さいのが好きって言ってるけど、ボクのことを気遣ってくれてるからなんじゃないかなって……、やっぱり大きい方が好きなんで……しょ?」
あぁ、なるほど。涙の理由はそういうことか
「たしかにな悠――」
「ぐすんっ、やぱりだぁ」
僕がいい終わる前に泣き出してしまう悠
「待って、待って! まだ言い終わってないから!」
「ふえぇ?」
ごぐふぇ!? こんなときに不謹慎かもしれないが、今のはヤバいっす、もう可愛いことを可愛いという言葉以外で表現できない僕の語彙力に憤りを覚えるほど可愛いです、キュートォ!
「たしかに大きいのが好きな男の方が多いかもしれないよ? でも、温泉でも言ったけど、僕は小さい方が好きなんだ、気を遣ってるわけじゃない。ていうか、そもそもね」
「うん?」
僕は一呼吸置き、微笑みながら伝える。
「好きな人の胸がどんなだって、一番いいに決まってるじゃないか」
悠の目はだんだん潤いを増してゆき大粒の涙があふれ出した。
「……うぐっ、ふえっ、ふわぁーん!」
悠は抱きついている腕にさらに力を込め、僕の胸に顔をうずめた。
僕はよしよしとただ頭を撫でていた。
悠が泣き止み、家に入って奏音ちゃんと美佳に最初に言われたこと
「「かっこつけたつもりだろうけど、言ってることはただの変態ですからね」」
聞いてやがったのかお前ら……。




