18.誰かさんの後ろにへびがいる(3)
中学に入学当初、炎樹が銀河と玄弥に変な構い方をした後、玄弥はうまいこと炎樹を紅葉に会いやすくなるよう話し誘導した。後々2人が付き合うようになった頃、紅葉と炎樹が話していてそういえば、と考えて気が付いた。
「玄弥よく回り見てるもんね。中学で炎樹が嫌味言ってきたときも、銀河は気が付いてなかったのに玄弥は気付いてたでしょ」
「なんだ。バレたんだ」
「まああそこで暴露されてたら、私も1年生で早々に浮いたやつになっただろうし。感謝してますよ~」
「えー? そうは見えないけど~」
「まーた。素直に受け取ってよね~」
くだらないバカ話をしながら、田所教授と話している炎樹の方へ2人で向かう。そろそろ休憩にするようで、涼太が朱里に奥で作業している、夢先の杜の人たちを呼びに行かせている。そして、健太には朱里の親戚でもある柊の家族に、声をかけて欲しいと仕事を振っていた。その様子を潮が珍しくにこにこと笑って見ていた。
その翌週は、緑山地区の別の地域の人たちまで、集まって神社の整備が始まった。先週の帰りに炎樹は、アンケートでお世話になった住民の皆さんの所へ、文化祭が成功したお礼がてら田所教授を連れて行ったのだ。玄弥はまさか炎樹がそこまで動くとは思っていなかったが、結果として地域がまとまって、神社を気にかけるようになったのは嬉しい変化だった。そして、緑山神社復興が早まることにつながっていく。
***
師走。先生が走ると思っている人もいるが、元はと言えば僧侶が経をあげるために西へ東へ走り回ったからだ、という説が有力らしい。そんなあわただしい年の瀬に、緑山地区ではなじみのない人々が、うろついているのが目撃されていた。
「ねえ、変なおばさんに話しかけられなかった?」
「いたいた。何あれ。目がもう逝っちゃってない? キモイよ」
「しかもさ~、もう最近なくなった幽霊騒ぎのこと、まだ言ってるんだよね」
「ホントダサっ」
あと数日で2学期が終わる緑山小学校の廊下で、朱里の同級生の女子たちが騒いでいる。いつもの年ならクリスマスプレゼントのことや、お年玉の額を予想して騒ぐ子どもたちが、違う話題で変な盛り上がりをしている。
朱里は夢先神社の神子に保護された後、意地悪をする子に幻覚を見せるのを止めていた。だから本当に幽霊騒ぎはなくなったのだ。それをまだ話題にしているのは、外にうわさが伝わるのが遅いからだろう。
「なあ、どう思う? 健太」
健太は朱里の1学年上。今は4年生で、いわゆる秘密基地が好きな悪ガキ学年だ。いつもつるんでいる同学年の男子が、健太に訊く。ガキ大将ではないが、健太は同年代の男子によく頼られる。なぜなら、健太が「なんか嫌だ」と避けたり、「行くのやめた」といった場所など、健太が参加しなかったり行かなかったところで、トラブルが多いのだ。それを本能的に知った子どもたちは、健太に意見を訊きに来る。
「そいつらよそから来たんだろ? なんか関わりたくないな。多分……人の話聞かないタイプだろ? あんだけ女子に鬱陶しがられてんだから」
「言えてるな~。女子に警戒されてるんで積んでるよ」
「やだなぁ。オカルトとかの取材じゃないか?」
その時、本能的に健太は「そいつらヤバい」と感じた。
「お前らさ、その危ないババア見つけたら、すぐ鏡さんちに教えてやってよ。」
「なんで俺たち? お前行けばいいだろ」
「多分次、俺たちに接触あるはずだから。そうすんと俺、動けないし」
周囲の男子は驚いていた。いつも朱里をからかう側にいた健太が、心配をしている。だが、上に姉のいる男子たちは何となく、姉の言ったことが本当だったと思っていた。まあつまり、健太は朱里が気になっているから構っていたのだ。
「それとお前ら、具体的なこと訊かれても「知らない」とか「分からない」とでも言って、正直に答えなくていいからな。変に反論すると、あいつらつけあがって聞いて来るらしいから」
それは事前に、羽鳥 潮が緑山神社の3家に、「エニシ様の存在と朱里の神力」を外から訊かれたときの対処法として、伝えていた最低限だった。
「らしいって、誰かに訊いたのか?」
「そう。今、鏡の家には頼りになる人たちがよく来るんだよ」
時折、夢先の杜から神子の涼太か、護衛らしい潮が来ているのだ。たまに、神社の周囲のことを確認に、田所教授か玄弥も顔を出す。
「ふ~ん。結局、昭里おじさんは戻らなかったんだね」
「当たり前だろ。多分不倫とかじゃないか?」
「ふーん。やっぱりね。だとしたら、誰が鏡んちにいるんだよ」
「今、鏡のおばさんがさ、緑山神社をきれいにしようって活動してるだろ? それを手伝ってくれる人たちがいるんだ。大学教授までいるらしいよ」
「へぇ~。それならちゃんとした人たちなんだな。少しは頼れるかも」
そう言って同級生やくっついてくる男子たちは、いつも通り健太の勘を信じることにした。
日差しはあっても空気の冷たい午後。予感通り健太は、女子たちのうわさしていた女に遭遇した。
「ねえ君、この辺りの子でしょ? 幽霊が良く出るって噂があるって聞いたけど」
「知らないよ。そんなもの出たことないし」
「うそだ~。あなたなら知ってるって他の子に訊いたよ~」
「知らないっては。おばさんうっとうしいから離れてよ」
そう言うと女は自分が「おばさん」と呼ばれたのが気に入らないのか、健太の手首をつかんで行かせまいとする。
「あら~あ? あんた結構かわいい顔してんじゃない。ちょっとだけインタビューに映ってよ~」
粘着質な話し方で、それに応じたらヤバいやつだと思った健太は身震いがした。
「ふっざっけんな! 絶対嫌だ」
「こら! 子どもに手を出すな。また警察沙汰になっちまうだろ」
そこに、その女の関係者らしい男が来て、女を止めた。
「プロデューサー! この子知ってるはずなのに、知らないって言うから~」
「ほら。またそうやって周りが見えてないだろう? これじゃまだ任せられないよ……すまないね、この人夢中になると周りが見えない人なんだ。さ、行きますよ」
そう言うと、プロデューサーと言われた男は、変な女を引きずるように連れ去って行った。健太の知らずに止めていた息が、ため息になって出た。そして、健太はゆっくり帰宅する方へ歩いた。ただふと、背中に嫌な感じがしたので、友達の家の方を回って帰ることにした。
なるほど。健太はどうやら弱いが神力を持っているらしい。様子を見ていた潮はそう見た。そして、健太が普段の通学路と違う方へ進むと、その後ろを見慣れない男が付いて行くのが見える。潮は附近の成鳥に指示を出し、その男を妨害させた。そして、成鳥たちで今後の対策を練ることにした。
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