第953話 破壊神の受体とその能力
俺達が食卓につくと、アイアンゴーレムたちが、せっせと食事を運び込んでくる。どうやら破壊神は、虹蛇と同タイプの神様らしい。受体がおめでたいものだと思っており、自ら宴の準備をしてるのだった。
「さあさあ!」
猫風の神様が、食べ物を勧めて来る。だが、なんか干し肉と魚の干物ばっかりが並んでいる。
隣のグレースが言う。
「そうですよね……ラウルさん。猫のご馳走はこうなりますよね」
「そうだよな。こんな地下だし、新鮮な物は望めないよね」
「ですよね~」
俺達がひそひそ話をしていると、破壊神が目を細めてじっと見ていた。グレースが取り繕う。
「あっ! この干した魚! めっちゃうまいですよね」
「ほうほう。あたらしい虹蛇はやはり、ご馳走が分かっているようだな」
破壊神が、俺達全員を眺めて言う。
「なんで……全員が人間なんだろう」
「といいますと?」
「蛇、龍、精霊、魔人、アトムまで、なんで全員が人間になっているんだろうねえ」
すると、エミルが言う。
「いえ、自分はエルフですね」
「だが、人寄りだ。前は、はっきりとした実態がなかった」
「まあ、確かに……」
言われてみれば、全員、人間として見える。そして、破壊神の視線がブリッツで止まる。
「で、我の神子も、人間だと……」
ブリッツが、ニッコリ笑って返す。
「そうですね。僕は、人間です」
俺達が話をしている横で、人間である低ランクの冒険者達が、青い顔をして座っている。食べ物には、手が付かないようでカチカチに固まっていた。
「で、そっちの冒険者は?」
急に振られて、冒険者が立ち上がり答える。
「あ、あの! わたくしどもは、ダンジョン探索の道案内をといわれまして! ここに来ました!」
「そっちは、普通の人間だね」
「はい!」
「ならば、なにかの縁かもしれん」
「え、縁?」
「そう」
猫スタイルの破壊神は、とにかく人間が勢ぞろいしている事を不思議がっている。でも考えてみれば、もともとの神たちは人間スタイルが少なかった。つい最近、骨もいたし、妖精みたいなばあさんもいた。
やはり……これには、なにかの意味がある……。
「あの、破壊神様」
「ん?」
「これをどうぞ」
俺は、自衛隊の戦闘糧食。まぐろ缶を召喚した。
「な、ど、どっから」
「ああ、えっと、どうぞ」
「どういう……」
話を無視し、俺は缶を開けて破壊神の前に持っていく。すると、鼻を鳴らして気が付いたようだ。
「これは、食べ物か?」
「そうです。どうぞどうぞ」
破壊神は恐る恐る、スプーンでマグロを取り出し口に運ぶ。
「……」
「どうです?」
「うおおおおおお! なんじゃこりゃぁぁぁ! うまいぞ! どうなってる?」
「魚です」
「これが、魚だと!」
やっぱり喜んだ。とりあえず、この世界の冒険者がいるところで、前世の話はしない方がいいと思う。だからマグロ缶やっときゃ黙ると思ったら、大正解だった。恐らく俺達全員が人間の容姿に近い理由は、間違いなく前世の地球が関係していると思うからだ。破壊神の神子であるブリッツも、人間だし転生者。もはや、これに関連性が無いわけはなかった。
破壊神は戦闘糧食のまぐろ缶を数十個も平らげ、いまは毛づくろいをしている。だが、鋭いまなざしを俺に向けて言った。
「魔神だけが、なにか違うようだな」
「違う?」
突然の言葉に、少し動揺してしまう。もしかしたら、缶詰のこと?
「その缶詰は、保存食のようなもので……」
「そんな事を言っているのではない。何と言うか……受体しただけじゃなく、体の奥底に見た事も無い、黒鉄の柱があるかのようだ。なにかがおかしい」
なんか、他の神にも覚醒してないとか言われたっけな。あれと、関係しているのだろうか?
「覚醒してないって事ですかね?」
「ああ、言って見れば、そういうふうにも見えるかもしれん。だが、違う」
「違いますか?」
じっと猫目を細めて、穴が空くほど俺を見て来る。
「魔神……と、そうでないものがいるような」
そこで俺は、ハッとする。そう言えば、まだ幼かったころモーリス先生にも似たような事を言われた。それで俺は、モーリス先生に目を向ける。すると先生は、ただにこやかに破壊神に言った。
「特別なんじゃなかろうかと、思うのですじゃ。破壊神様」
「ふむ。人間の老人、どういうことだと思う?」
「わしは、そないに長く生きれるわけでは無い人間じゃから分からんのですが、こう……なんというか、未練とても言ったらいいですかの? 何かにつかまれておるような、そのような感じと申しますかの?」
破壊神が、猫の髭をピーンとさせて目を見開く。
「そ、そうだ。その感じだ。何か、奥底で昔の何かと繋がっておるような……」
するとそこで、オージェが口を挟んだ。
「破壊神様、なにか輝き始めているようですが?」
「おお……とうとう来てしまったな。神子よ、こちらへ」
ブリッツが立ち上がり、破壊神の側へと歩み寄る。破壊神の尻尾がゆれて、喉がごろごろなってる。
猫だ。
「では、まっていたよ。受体を」
「これが、この世界に来た理由であれば受け入れます」
ブリッツがそう言った次の瞬間、破壊神が言う。
「毛皮は選別だ。使っておくれ」
そういって、ブリッツに覆いかぶさり、ファサッ! と体の体積が無くなる。残ったのは猫の毛皮と、光り輝いているブリッツの姿だった。
ブリッツが言う。
「あ。変わった」
俺達、皆が体感した感覚だ。
「次世代の神になったんだよ」
「そうなんだ。あっけないものだね」
「なんか、それぞれで違うみたいで」
グレースの時なんか、雷に打たれてたし。だがこれで、ブリッツが破壊神となった。名前が物騒だが、破壊と創造をつかさどる神様らしいので、きっとそんな恐ろしいもんでもないだろう。
「これは、僕のトレードマークになりそうだ」
そういって、猫の毛皮をパフッ! と羽織る。
「いい感じだね」
「暖かいし軽いし。なんか、力が漲って来る」
受体が終わり、俺達はとうとう、もう一人の神を引き継ぎさせた。
「んじゃ、行こうか」
だが、そこでブリッツが言う。
「えーっと、待ってほしい」
「なに?」
「どうやら破壊神は、やる事をひとつ残していったようだ」
ブリッツは立ち上がり、アイアンゴーレムたちに向かって叫ぶ。
「付き従え」
するとブリッツに付き従うように、アイアンゴーレムたちがついて行く。俺が、冒険者に言った。
「ここで起きた事は、ここだけの話だよ」
「「「「は、はい!」」」」
「外で言っても、誰も信じないと思うけど」
「「「「わかりました!」」」」
大神殿のような場所を出ると、大きな洞窟の入り口に、さっきの大巨人がいた。
「あ、あなたは。破壊神様でねえか!」
「次は人間になったけど、嫌いかい?」
「破壊神様に変わりはねえっす」
「すいぶん、でかい図体に作られたね」
「あ、おでは、守りは一人でいいっていうもんで、一人デカくて強ければ守れるってこうなって」
なるほど……これは、破壊神に想像された生き物らしい。
「じゃあ、作り変えようかな」
「おで、元に戻る!?」
「破壊神が、そう言っていた」
「おおおお。ここから出れる! デカすぎて出られなかったから!」
「だろうね」
ブリッツが手をかざすと、アイアンゴーレムたちが一斉に巨人に取りついて行った。アイアンゴーレムの手先が、工具に変わる。トンテンカンと、巨人の体を削り始めた。すると岩のような肌が剥がれ落ち、どんどんコンパクトな感じになっていく。
「なんか、凄いな」
「ああ……」
「あれが、ブリッツの力って事か?」
「なんか、僕の岩のゴーレムが……劣化版って感じで軽く敗北感あります」
「いや。それぞれに、特徴があるんだろうけどな。グレースが劣ってるわけじゃないし」
そんな話をしている間に、巨人がどんどん作り変えられて、三メートルくらいになった。
「なんか……シュッとしたね」
「だな」
岩だった人間が、なんか真っ白い異星人みたいになった。
「なんか、芯みたいな感じ」
「「「確かに」」」
そこから、またアイアンゴーレムたちが作業を始める。
「えっ! えっ!」
俺達は目を輝かせてしまう。
「メカ……っぽい」
ブリッツが、どや顔で俺達に言った。
「なーるほどね。この力、なんとなくわかったよ」
俺が答える。
「なんか、クラフト系だね」
「もちろんそうなんだけど、ちょっとまっててね」
アイアンゴーレムたちが作業をしているのを眺め、ようやく仕上げが終わったらしい。
モーリス先生も、大喜びしている。
「凄いのじゃ! あっという間に形が変わったのじゃ!」
だが、俺達はある程度の見覚えがあった。
「デカいけど、あれだよな」
「だな」
「こんなところで見るとはな」
「かっこいいですね 」
某ハリウッド映画で見た事のあるような、変形タイプのメカっぽいのがいた。俺がブリッツに聞いた。
「好きなの?」
「ロマンあるでしょ」
「でも、車とかには変形しないよね」
「そこまでは無理っぽい。芯あるしね、ただ見た目だけはね」
性能までは備わってないらしい。メカっぽくなった奴の周りから、アイアンゴーレムたちが退いた。
「立て」
ブリッツが指示をすると、もと巨人だったそれが答える。
「イエス、マイマスター」
「「「「えっ?」」」」
なんか、おで。とか、だっぺ。みたいな感じだったのに、言葉遣いが変わってる……。
それを聞いて、ブリッツがどや顔でこっちを見た。
「これ。僕の力らしい。これを見せたかった」
「え! 中身ごと作り変えたってこと!?」
「そうらしい」
「これ、生き物じゃないの?」
「生き物だけど、あの芯のような物は、破壊神が生み出した生き物だね」
どうやら、自分のゴーレムを破壊して、作り変える力があるらしい。本来破壊創造神なんだろうけど、多分、破壊神の方だけが残った感じだ。エミルがボソリと言う。
「グレースと被る」
グレースが、落ち込みながら言った。
「僕も命は吹き込めますが、なんか、しゃべるってずるいですよね」
ブリッツが首を振って、言った。
「数に限りがあるみたい。無限に、増やせるのなら、ここはアイアンゴーレムだらけになっていたはず。グレースさんのゴーレムとは質が違うけど、戦闘にはつかえるのかな?」
「でも、しゃべるし、言葉を理解して動いてる。こっちは、コマンド入れこまないといけないのに!」
「なるほど」
そこで俺が言う。
「虹蛇……なんか、憧れてたぽい気がするな。でもたぶん、あれが限界だったんだろうけど。おそらく、虹蛇の真骨頂は、本体が発現出来てからなんじゃない?」
グレースが頷いた。
「そうか。僕には伸びしろがあった!」
それに、エミルが返す。
「のびしろでいったら、俺達もそうだ。全員が新米なんだから」
「確かに」
そんな話をしていながらも、俺は一つだけ気になっていた事がある。俺の中に、黒い鉄の箱があって、他の神とは何かが違うと破壊神は言っていた。俺の中では、それが兵器召喚なのだろうと思っているが、なにか他にもありそうな気がして、モヤモヤが取れないのだった。




