39.これも一つの予防策
「はっ・・・」
ざくっ ひゅーん どさっ
「ふっ・・・」
ざっ ひゅ〜ん どさ
「ふぅ・・・」
こんなところでしょうか。
数日振りに雪が止みました。
しかしてたった数日で前回雪を除けた場所にも遠慮なく雪が積もり、歩くに困難な状態へと逆戻りです。
例年よりも雪の降る量が多く、除けても除けても降り積もる雪に僅かながらの徒労を抱かなくもありませんが、これも鍛錬の一つと思えば態々このような場を提供してくれる冬という季節に感謝の念も覚えるというものです。
「お嬢様、こちらは終わりました」
「お疲れ様です、アル」
本日は我が家の敷地内をアルと手分けをして雪かきをしております。
最初は他の使用人や兵士も一緒になり雪かきを始めようとしていましたが、使用人たちには通常のお仕事に就いてもらい、兵士たちには町の方の雪かきをお願いしました。
しかしいくら敷地内と言えど、我が家は曲がりなりにも侯爵家。
魔界を背にする関係上、領地ではなく侯爵家としての敷地だけで町一つにも及ぶかと思われる面積を誇りますからその作業量はかなりのものです。
普通に考えればその作業をわたくしだけで賄えるはずもなく、当然周りからはとてもとても反発されました。
最終的にはアルと手分けをして行うことを条件に敷地内での雪かきの権利をもぎ取りました。
普段でしたら兵士と一緒になって町や街道の雪かきをするのでも良かったのですが、本日は少し試したいのともあったため別行動をさせて頂いたのです。
・・・あと、何かあっても敷地内であれば対処がし易いはず、という打算も込みで。
別に意図して何かを起こそうとしているわけではありません。
ただ、最近増えつつある様々な意味で物騒な装備品たちの性能を試したかったのです。
それこそ何処か意図しない場面で力の暴発や過剰な発露などがないとも限りませんから、なるべくこれらの持つ性能をしっかりと把握してもしもの時に備えることこそが、本日の一番の目的です。
兵士や使用人を参加させたくなかったのはもしものときに巻き込まないためなのです。
もしも、が無いに越したことはありませんが、もしもがあったときの被害は・・・正直に申し上げれば想像ができません。
ですので表や屋敷の周りはアルに任せ、わたくしは裏手の訓練場や魔界へと続く方面の雪かきをしているのですが・・・
「これは想像以上の成果ですね・・・」
独りごちながら雪かきをしてきた背後を振り返ります。
そこに広がる広大な土地。
そこには常より見られる大地と草地。
しかも地面は適度に乾いており、泥濘むほど湿った箇所はまだ雪を除けていない付近にすら見当たりません。
再び振り返り、前方や左右を見渡せば遠くには雪の山が見えます。
これはアルから渡された危険物をフル装備した、本日のわたくしの成果です。
足元にはそろそろ馴染むほどには履いているバーストグリーブ。
首から下げるは赤い石が台座にはまった護符。
手には最も新しく、最も物騒なワイバーンの手袋(仮)。
手袋越しに伸縮・・・というよりも拡大縮小可能な槍、昇魂。
服装は運動用の普段着。
本日の完全武装の内容はこの通りとなっております。
・・・護符と昇魂は念の為にいつも身につけていますが。
さておきまして。
わたくしの作業風景を少しご説明しますと、横幅を広めに展開した昇魂をスコップの代わりに一かきで積もった雪を底から持ち上げそれを敷地の外周、人があまり立ち入らない辺りまで難なく放り、次の場所まで足を進めると既に乾いた地面や芝が顔を覗かせている、といった具合です。
しかももう終わりも見えてきているほどにはそれを繰り返していますが、殆ど息切れもせずにいます。
「色々と物申したいことはありますが・・・それでも手袋に即座に周囲を害するような危険な機能がついていないことが確認できただけでも良しとするしかありませんね・・・」
わたくし以外が触れると何が起こるか分からない(試すことすら躊躇われる)護符の例もありますから、まだ油断はできませんが。
本日のところはめでたし(仮)めでたし(仮)としておきましょう。
「いや〜、しかし軽々と人間の壁を突破されてしまわれましたね、お嬢様。それも超えるのではなく扉を開いて通り抜ける感じに」
「誰が化け物ですか。大体が、その扉を作った張本人にだけは言われたくありません」
折角心に折り合いをつけて自分を納得させたところに水を差さないでください。
お嬢様の作業風景を目にした使用人「あらやだお嬢様ったら怪力無双・・・」