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「ではリンちゃん、行ってきますね」
「うん。大変そうだけど、無理しない程度に頑張りな。いざとなったら、カレンのお兄ちゃんと一応キースもいるみたいだし、迷惑とかそんなん考えなくていいから助けてもらうんだよ?」
私は苦笑いで実家に戻ります。
マリアは準備の時間が足りないと行って、私達が授業を受けている間に、一足先に屋敷に戻っております。
リンは一人残された広い寮の部屋で独りごちる。
「お留守番かぁ~、てかココ。こんなに広かったんだね~。凄い静かだし」
その声は少し寂しそうだった。
◇◇◇
「カレン様、まずこちらにお座り下さい」
まずは明日のパーティーで着るドレスに合わせたヘアとメイクを決めるそうで、やる気満々で目の血走ったマリアや使用人たちに逆らわないよう、大人しく言われた通りの席に腰を下ろす。
後方には、今回のために作られたドレスが宝飾品と一緒に飾られている。
「このドレスには少し大人っぽいメイクが良さそうですね」
「では、ヘアも大人っぽく夜会巻きにしますか?」
「緩くアップにして、幾筋か首元に巻いた髪を垂らしてみては?」
皆で意見を出し合って決めているようですが。
ヘアもメイクも適当で良いのだけど……など言い出せるような雰囲気では無く。
皆さんとてもイキイキされているように見え、少し怖……いえ、何でもありません。
大人しくしておりますので、なるべく早く終わらせるようにお願いします。
「完璧ですわね」
マリアの言葉に他のメイド達も嬉しそうに頷きます。
ようやく納得して頂けたようです。
今日はこれで解放されるのですよね?
もうクタクタです(主に精神面で)。
「カレン様、明日は朝から忙しくなりますので、今日は早くお休み下さいませ」
「ええ、そうさせてもらいますね」
パーティーは夜からなのに何故朝から? と、いつも思うけれど。そんなことはもう、どうでも良いというか……。疲れ過ぎて何をする気も起きないというか。
後は部屋で寝るだけの状態になり、フラフラと部屋へ戻ります。
アルとエテルノさんは、先に部屋で寛がれておりました。
『カレン、お帰りなのだ』
『主、お疲れのようだな』
ああ、この二人(二匹)の姿に癒されます。
「やっと解放されました……。疲れ過ぎましたので私はもう寝ますが、アルたちはどうされますか?」
二人は顔を見合わせると。
『『一緒に寝る(のだ)』』
と、一緒にベッドに潜り込みました。
「では、明かりを消しますね。お休みなさい」
『『お休み(なのだ)』』
いつもなら本を読んでから眠るカレンが、本も読まずにサッサと寝息をたてている様子に、アルとエテルノは苦笑いするしか無かったとか。
そして静かに夜は更けていくのだった。
◇◇◇
「カレン様、おはようございます」
マリアではない使用人が、起こしに来てくれました。
マリアはヘアとメイクの準備の方に行っているらしく、その前の準備にはその他の使用人達が色々と手伝ってくれるらしい……です。
『準備』と『色々』という所がかなり気になりますが、人間知らない方が良いこともありますよね?
言われるままに、起こしに来てくれました使用人のマーサに着いて行きます。
お風呂に到着しました。
自分で洗うからと言いましたが、却下され念入りに全身を洗われた(恥ずかし過ぎて死にそうです)後。
中央にベッドが設置された部屋に案内され、エステを受けております。
それが終わったら今度はネイル。
ネイルの合間に、簡単な食事をいただきます。
生ハムの入ったサンドイッチはとても美味しいです。
数種類ありましたカナッペも、どれもとても美味しく。
美味しいものをいただいている間だけは、この後の地獄を忘れておりました。
この後の地獄……それはコルセット。
時間を掛けて、少しづつウエストを締め上げていくのです。
これに関しては声を大にして言いたい。
『バカなんですか?』
と。こんなに締め上げたら体にいい筈ありません!
こんなものを世に広めた方、恨みますよっ!!
元々細かったウエストは、一時間程掛けてかなり締め上げられ、出来上がったのは不自然な程のクビレ。
もうこの時点で私のHPはガリガリと削られて、レッドゾーンに突入しております。
マリアを先頭にヘアとメイク担当の使用人たちに囲まれ、どんどんと作り上げられていく『社交界用のカレン・リード』。
鏡の中には『初めまして、新しい私!』と言いたくなるほどに、普段の私とはかけ離れた私の姿が。
漸く『社交界用のカレン・リード』が完成したのは、お屋敷を出る時間の少し前。
出来上がった私を見たお母様やお兄様は、とても褒めて下さいました。
お父様は今長期出張のお仕事中で、私の晴れ姿(?)を見られないことをとても残念がっておられたそうです。
お兄様と馬車で舞踏会会場である、宮廷へと向かいます。
緊張し過ぎて、口から心臓が出て来てしまいそうです。
お兄様がそんな私の様子を見て、苦笑されます。
「カレン、今からそんなに緊張していては、パーティーが終わるまで体が持たないよ?」
そうは言われてもですね、緊張するものは緊張してしまうのですから。
「何かありましたら、お兄様が助けて下さいね?」
半分緊張で泣きそうになりながらそう言うと「任せろっ!! 」と、とても頼もしいお返事が。
そしてすぐパーティー会場に到着してしまいました。
参加者達の馬車が所狭しと並べられ、これは馬車の展覧会ですかと聞きたくなる程です。
馬車を降り、お兄様の腕をとり、パーティー会場へ。
入口の少し手前で。
豪華絢爛という言葉が頭に浮かぶ会場に呆気にとられていると、お兄様が苦笑しつつ小声で仰いました。
「カレン、口開いてるから閉じなさい」
慌てて口を閉じ、柔らかな笑顔を貼り付け、会場内へと足を進めます。
さあ、社交界デビューです!!