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カレンはピアスを手に取ると、思わず「キレイ……」と呟く。
「そのピアス、うちの新作なんですよ」
ショートカットの可愛らしい店員のお姉さんが、ニコニコと話かけてくる。
「今手に取って頂いているのはペット用のピアスですが、こちらのピアスをご自分用にと、セット購入される方が多いんです」
そう言うと、店員はカレンが手にしているピアスよりも少し大振りなピアスを差し出してきた。
「わぁ、素敵!」
アルとお揃いのピアス……。
「決めました。こちらセットで頂きます」
「ありがとうございます。ご自宅用ですか? それともプレゼント用になさいますか?」
「自宅用で」
「かしこまりました」
小さな袋に入ったソレを持ち、通りを挟んだ反対側で待っていたラルクとアルに合流する。
「アルの瞳と同じ琥珀のピアスです。気に入って頂けると嬉しいのですが……。私とお揃いなんですよ」
袋から出してアルに見せる。
『カレンとお揃い……』
言葉では感想をもらえなかったけれど、アルの尻尾がブンブン音を立てそうなくらい振られているので、気に入ってもらえたようだ。
お揃いで付けていると、それを見たラルクがあまりにも羨ましがるので、もう一つ追加で購入し、三人お揃いとなった。
初めての食べ歩きは、とても楽しく美味しい時間で。
ラルクが長期休暇で居られる間に、もう一度連れて行ってもらえるようにお願いしようと思っている。
◇◇◇
屋敷に戻り、自室でゆっくり本を読んでいるところだ。
ちなみにアルはカレンの膝の上で丸まって寝ている。
……眼福!
ちなみに今読んでいるのは、ラルクのお土産の中に紛れ込んでいたもので、何でも今街で大人気の小説とのこと。
学園に入り仲良くなられた方から勧められてお借りしたものが、どうやらカレンのお土産の中に紛れ込んでしまったようだ。
ラルクは小説にはあまり興味がないようで、まだ読んでいないそう。
興味があったので、カレンが先に読ませてもらっている。
記憶をなくした少女がギルドマスターである青年に助けられ、やがて二人は恋に落ちるというお話。
実は少女は異世界人だった……という、少しドキッとする内容のものだけれど、チートな設定などはなく、それでもなかなか面白くまとまっている。
こちらの世界では娯楽というものがとても少なく、トランプなどのカードゲームすらない。
書籍の種類も魔法書などが殆どで、小説は極々少数しか発売されていないのだ。
そんな中でのこの小説が人気となるのはわかる気がする。
前世で言うところの、玉の輿といったところだろうか。
今の私は国の主要貴族の子どもとして生まれたので、本来であれば結婚相手は、国内外の主要貴族か王族で決まるだろう。
父のもとには私への縁談話が山のように来ているとアルが言っていた。
アルは皆に可愛がられており、散らかさないのでどこでも出入り自由なので、マル秘書類も見放題なのだ。
まあ、今のところ父が全部丁重にお断りされているようだけれど。
貴族ともなれば早いうちから家同士で約束をし、カレンの年齢の頃には大体婚約者が決まっている。
今までにそのような話をしたことがないので、父がどう考えられているかは分からないが、これは『自分の伴侶は自分で決めろ』ということなのだろうか?
学園に入学して、素敵な出会いがあればよいのだけれど。
※リード家当主は美しいと評判の娘を手放したくないために、全ての婚約の申込みを断っている。
嫁に出す気がないらしいというのは社交界で有名な話ですが、社交界デビューがまだのカレンはそんなことは知りません。