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カレンが前世の記憶を戻してから八年の月日が経った。
早いものでついにカレンも十三才となり、フォード学園(中等部)へ入学する歳に。
マリアをはじめとする使用人達はここ数日、カレンの入学準備で大忙しである。
寮の部屋には簡単な(質素な)家具が備え付けてあるようなので、使えるのであれば何でもいいと言うと、マリアは「とんでもない!」と言い、直ぐにあちこちに手配するべく部屋を出て行った。
カレンのために手間を取らせてしまって、本当に申しわけなく思う。
これから六年間、大学部まで進むのであれば十年間、基本長期休暇以外屋敷へは戻って来られなくなるのだ。
入学後もマリアとアルが一緒にいてくれるしラルクもいるが、やはりお父様お母様、使用人の皆と会えなくなるのは寂しい。
いよいよ明日は入学式だというのに、新しい出会いへのワクワク感と、家族に会えなくなる寂しさと、学園生活に対する不安と、色々な気持ちがシャッフルされたようなグチャグチャな気持ちで落ち着かず、眠れない。
そんなカレンの気持ちを察してか、マリアがホットミルクを用意してくれた。
本当にマリアは昔からカレンの気持ちをよく察してくれる。
自分でも気付かないような小さな変化にも、マリアは気が付いて対応してくれるのだ。
ありきたりな言葉しか言えないけれど、沢山の感謝の気持ちを込めて。
「ありがとうございます」
マリアに届きますように。
◇◇◇
「似合いますかしら?」
鏡の前でソワソワと落ち着きのないカレン。
「とてもお似合いですよ、カレン様」
……もうこのやり取りを三回ほど繰り返している。
カーキー色の、襟は大きいけれどシャープで、スカーフのような大きめの黒いリボンが下がり。
ウエストでシェイプされ、裾の広がるワンピースの中に、ワンピースより少し長めの黒いフレアースカートがついている。
軍服のカッコ良さに、甘い可愛らしいテイストを取り入れた軍服風のこの制服は、とても可愛いと評判なのだそう。
「カレン様、そろそろ参りましょう」
「そうね、皆をお待たせしてはいけないわね」
前向きな気持ちと後ろ向きな気持ちはとりあえず押し込んで、二年前にラルクを送り出した時のように、今度はカレンの番なのだ。
玄関ホールを出て車寄せにはすでに馬車が停まっている。
そして使用人達が皆、カレンを送り出すために並んで待っていてくれる。
「皆さん、お見送り……ありがとうございます」
寂しさから、少し声が掠れてしまった。
「お嬢様、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「はい、行って参ります」
使用人達からの送り出しに元気よく返事をすると、カレンは少し後ろ髪を引かれる気持ちに蓋をして馬車へと乗り込んだ。
馬車に揺られること二時間、フォード学園前に到着した。
ラルクから話には聞いていたが、馬車の中から見えているソレは規模が少し? いや、だいぶおかしい気がする。
門から続く白く高い塀は何処までも続き、先が見えない。
高く聳え立つ建物はいくつも見えており、学園というよりこちらは一つの町と説明された方が納得出来る規模だ。
立派な門の横には交番のような建物があり、二人の門番? が厳重に人の出入りをチェックしている。
こちらは馬車専用の入口で、徒歩専用の入口は別にあるとか。
許可が出ないとあの立派な門は開かないようだ。
カレン達の馬車の前にも、数台の馬車が並んでいる。
一台の馬車が通る度に門が開閉され、一々大変そう……などと口に出したりはしない。
少し待って馬車の通行が許可された。
車寄せに着き、父の手を借りて馬車から降りる。
この辺りまで来ると、入学式に出席するであろう生徒と保護者で混雑している。
父と私は入学式の行われる講堂に、マリアはアルを連れて一足先に寮へと向かう。
入学式には、入学する本人とその保護者以外の立ち入りは禁止されているのだ。
講堂の入口の横にS~Fクラスまでの名簿が貼り出され、皆確認してから中へと進んで行くよう係の方が誘導しているが、あの人集りでは確認するのも時間がかかりそうだ。
Sクラスは貴族・王族、特待生のクラスで、A~Fクラスは特に決まりはない。
貴族である私はSクラスが確定しているため、名簿を見ずにそのまま入口に向かう父の後を着いて行く。
講堂を入って右側に保護者席(貴族席と平民席がある)と貴賓席、教師の席。
左側奥からSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラス……というように並んでいる。
父とはここで別れ、Sクラスの席へと向かった。
クラス席の中では特にどこに座るということは決まっていないようなので、後ろの方の席を選んで座ることにした。
後ろや端の席って、何だか落ち着くのだ。
始まるまでの間にと思い、今朝使用人のミントからプレゼントされた、以前ラルクが借りていた小説の続編を読んでいる。
隣に誰かが座った気がしたけれど、今とてもいい場面なので、そのまま小説を読み続ける。
隣に座ったのはどうやらヤンチャな男の子だったらしく、更に隣の誰かとふざけて騒いでいる。
男の子が振り上げた手が私にぶつかり(結構な衝撃があった)手から本が落ちてしまったのだが、まるでカレンがそこにいないかのように騒ぎ続けている。
ミントがカレンのために見つけてきてくれた小説なのに……。
カレンは溜息を一つついて落ちてしまった小説を拾い、汚れがないか確認し、もう少し前の席に移動しようと思ったその時。
「おい、女の子にぶつかっておいて謝りもせずに無視とか、お前最低だな」
後ろから男の子とも女の子ともとれるような声がしたと同時に、カレンにぶつかった男の子が凄い音をたてて椅子から転げ落ちた。
痛そう……と思って見ていると、
「大丈夫? 怪我はない?」
その声に振り向いた先には、ダークブロンドの髪を後ろで一つに結んだ、少し釣り上がり気味の瞳をした、綺麗なお姉さんタイプの女の子が立っていた。




