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95.

 前田は悩んでいた。奥の話はそれだけインパクトがあった。その話は、大平に全ての罪を負わせるような内容だった。

 しかし、それだけでは、完全には満足できそうになかった。奥が無事だからではない。さっき、父親に連絡をしなかったのが正解だったからだ。

 十分予想はついたことだが、信じたくなかったので考えようとしなかったこと。けっきょく、5年前の事件がうやむやになったのは、奥によると、前田の父親がドラッグに関わっていたから、ということだった。

 建前としては、前田とその母親を守るため。しかし実態は、ドラッグに関わっていた前田の兄の死の真相を葬り、その兄と、支援者の娘の関係を警察や世間の目の届かないように隠し、支援者の面子を守った。つまり、自分の名士としての評判を守っただけだった。しかし、本当にそれだけだったのか?

 奥は悩んでいる前田の様子を、喫茶店の外から眺めていた。特に愉快でもなんでもない眺めだった。ああいった奴は脅威にはならない。奥はそう思いながら、携帯電話を取り出した。

「よお、じいさん。今、噂の青年とやらに会ったぜ」

「勝手なことをしてもらっては困る」

 大平は極めて不機嫌そうだった。

「そうかい? あんたがやったことに比べれば、大したことでもない。俺の言うことを聞いたのは、あんたが事前にあいつとご対面してたからだ。それにな、混乱してる奴は都合がいいもんだ」

「誰にとってだね?」

「誰にとってもだ」

 大平と奥はしばらくの間、無言になった。先に口を開いたのは大平だった。

「私のことは別にいい。とにかく、先生を守るんだ」

「ああ、わかったよ」奥は一方的に電話を切った。「都合がよけりゃ、考えてやってもいいぜ」

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