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93.

 須田は驚きを顔に出すのを押さえながら、吉田のメモを読んでいた。考えていたよりも、ずっと悪い事態だというのが嫌になるほどよくわかった。三山は須田の後ろからメモを覗き込んで、楽しそうにしていた。

「お前、その大平ってのは知ってるんだろ」

「ああ、以前は色々世話になった」

「何かわけありか?」

「そうだな。わけありだろうな」

「それじゃあ、しばらく席を外させてもらうぜ。じっくり考えろよ」

 三山は吉田を連れて事務所から出て行った。一人残された須田は、吉田のメモを持って、事務所の中を落ち着きなく歩き回り始めた。吉田のメモに書かれていることをもう一度よく読んだ。

 まず、吉田が今回の件に関わるようになったのは、前田が須田に依頼を持ち込む少し前。大平が吉田に接触したのが最初だったということだった。なぜ大平が接触したのかはわからないが、おそらく、吉田が清廉潔白な弁護士ではなかったからだろう。

 大平が関わっているというのも重大な事実だったが、もっと大事なのはその後の流れだった。まずは、あの三島を狙った筋肉男は大平の依頼を受けた吉田が紹介して、指示は大平が出していた、ということだった。三島が2回襲われたのも、須田の前に筋肉男が姿を現したのも、大平からの指示だったということだった。

 仮にその通りだとして、そこまでして大平は何を守りたかったのか? メモには書かれていないが、須田の脳裏には一つの考えが浮かんだ。5年前のあの事件と、今回の件はつながっていて、あの名士にとって重大なことが隠されているのかもしれない。だとすると、大平が守りたいものは、名士という偶像を支えるための偽りなのだろう。

 ドラッグは資金源としてか、それとも人脈のために使われたのか、あるいはその両方かはわからなかったが、どちらにせよ、おおっぴらにするわけにはいかないものであるのは間違いなかった。

 だからといって、殺しまでするのだろうか? 明らかに三島は命を狙われていた。あのヒモの男も他殺の可能性がある。しかし、それを大平と結びつけるということは、可能性が低いことのように思えた。そこまで馬鹿である可能性は少ない。

 しかし、奥とつながっているなら、そうとも言い切れない。もし、奥を利用しているつもりだったのが、逆に利用されるようになってしまっていたとしたら? ああいうのと関係が一度でもできると、なかなか切れなくなるものだ。

 大平が筋肉男に指示を出していたというのは表向きのことで、実際は奥が大平をコントロールして、一連の事をさせていたのかもしれない。

 須田はそこまで考えてから、メモを胸のポケットに突っ込んで事務所のドアに手をかけた。とにかく、動かなければどうにもなりそうにない。

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