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85.

 山中は石村がドアを開けても、全く反応せずに絵を描いていた。三島はその様子を熱心に見ていて、時折、山中の質問に答えていた。清水は特に退屈な様子を見せずに、2人を見ていた。

 石村はこういう雰囲気が苦手だった。自分が能動的に動けない状態というのは実にストレスが溜まった。あえてこの状況を壊すことにした。

「まだできあがらないのか?」

「ええ、もうちょっとかかりますね」

 山中は絵を描くことをやめずに答えた。石村が絵を覗き込んでみると、人物は輪郭だけで、背景ばかりが描きこまれていた。

「似顔絵を描いてるはずだよな、風景画じゃなくて」

「こうしたほうが正確に仕上がるんです、いつもやってますよ。出すぶんは顔しか書かないんで知られてないんですけど」

「なるほどね」

 石村は黙って絵をじっと見た。薄暗い雰囲気で、椅子やテーブル、厨房設備等が整理されて置かれているのが描かれていた。

「三島さんはどこで例の2人と会ったかはわからないんでしたね」

「はい。その時は目隠しされて車に乗せられていたので」

 三島の返事に、石村はしばらくの間、首をかしげて考え込んでいた。そして、独り言のようにつぶやいた。

「この絵を見る限り、どうやら貸し倉庫か」

「でしょうね。でも、あまり詳しくは描けそうにないんで、特定は難しいと思いますよ」

「いや、倉庫だということがわかれば十分だ」石村は山中の椅子を軽く叩いた。「謎のおっさんのほうも頼んだぞ」

「了解」

 返事は良かったが、結局、山中は一度も石村を見なかった。石村には、なぜ山中が警察にいるのか、さっぱりわからなかった。そうして首をひねっている石村に、通りがかった課長が声をかけた。

「どうだ、お客さんの様子は?」

「どうでしょうね。おもしろいものが出てくるんじゃないかと思ってますが」

「ここまで許可してるんだ。何もなしというのは勘弁してくれよ」

「そいつは須田に言ってやってください。あいつ次第ですから」

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