84.
須田は自分の事務所に戻っていた。おとなしく似顔絵の完成を待つのが賢いやりかたと言えるかもしれないが、悠長にしている余裕はなさそうな気がしていた。
三島が言っていた、60歳くらいの男。それを前田に確認してみる必要があった。もちろん、警察に近づけるわけにはいかなかった。そのための事務所だ。
前田が到着するのには、あと30分くらいはかかるようだった。その時間でできることもある。須田は電話の受話器を取り上げた。
「はいもしもし、セールスならお断りだ」
三山がやる気がなさそうに電話に出てきた。
「売り込みじゃない」
「それはもっとお断りしたい」
三山はおおげさにうんざりしたような調子で言った。須田は特に何の反応もしなかった。
「わかったよ、何の用だ? 例の客ならおとなしくしてるぞ」
「それとはまた別なんだが、このあたりで60を越えてて、ドラッグに関わってる人間に心当たりはあるか?」
「そんなイカレタおっさんは聞いたことないぞ。何なんだそりゃ?」
「こっちもわからない。ただ、お前の所の客なら何か知ってるかもしれない」
「あのハゲにも使い道があったんだな。そりゃめでたい話だ」三山はそう言ってから、少し改まった調子になった。「お前には、心当たりはあるのか?」
「無いな」
「よく考えてみろ。少しでも可能性がありそうな奴はいないのか?」
「いないということもないだろう」
「なら、そいつのことを気にしておけよ。このゴタゴタが一筋縄でいかないのはわかってるだろ」
「そうだな」
「いい連絡を待ってるぜ」
三山は電話を切った。須田は受話器を戻してから、天井を見上げた。とりあえず、何が起こっても動じないようにと、自分に言い聞かせた。




