78.
須田は饒舌な前田の言葉を聞きながら、頭の中を整理していた。この話には、どれだけの嘘が混じっているのか。それをうまく判断できるかが大事なことだった。
「なるほど。ところで、三島さんのことはどうやって知ったんでしょうか」
「それはまあ、自然とわかったことですよ。ああいったことをやってれば、色々なところから恨みをかいますから」
「たしかにそうでしょうが、明確な目的を持って探さなければ見つかるものではありません。あなたの目的に適う人は三島さんだけではなかったはずです。その中でなぜ、彼女を選んだんですか?」
「偶然ですよ」
前田は何気ない様子で即答した。須田は特に表情を変えずに質問を続けた。
「三島さんは半年ほど前からこの街に来ていたらしいんですが、それはご存知でしたか?」
「ええ、知ってましたよ」
「こっちに来てから協力関係になったということですが、それはあなたが来てからですか? それとも三島さん達が来てからのことですか?」
「ああ、それは私が来てからという意味で言ったんです。3ヶ月前の話です」
「接触したのはいつ頃でしょう」
「2週間くらいしてからですね」
「その時三島さんは何をしていたんでしょうか?」
須田の言葉に、前田は少し首をひねった。
「どういう意味ですか?」
「あなたが最初に私の事務所に来た時には、彼女は何かの目的、おそらくは奥との関係を断ち切るために、死んだヒモと関係をもっていましたよね」
「そのことですか。それはあの人がこっちに来て、最初からやっていたことですよ。そもそも私が彼女のことを知ったのもそのおかげでしたね」
「そのあたりの経緯を詳しく聞かせてもらえますか」
「そんなに面白い話でもありませんよ」前田は一つ咳をした。「私はずっと奥を追っていたんですが、正直言って、あいつを捕らえるための手がかりを見つけるのは、中々うまくいかなかったんです。そんな時に彼女のことを見つけたんです」
「奥との関係があって、そこから抜け出したがってる人物ということですね」
「そうです。期待できるかもしれないと思って、ずっと気にしてましたが、半年前に突然姿を消した時には驚きました。行き先を探すのは苦労しましたよ」
「それで追いついたのが3ヶ月前ですか。そして、彼女が現在やっていることを調べるのに2週間、ですね」
「その通り。彼女は大したもんですよ、この街で奥のドラッグを捌いてる男を見つけて、そこに乗り込んでいったんですから」
「三島さんは自分の持っている奥とのルートを使わないで、なぜそんなまわりくどいことをしたんでしょうか」
「彼女は末端だったんです。奥と直接の取引があるわけではなかった」
「例のヒモはもっと上のほうだったんですね」
前田はうなずいた。
「そこに食い込んで、重要な情報か何かを探っていたんです」
「あなたはそこで接触したわけですね」
「ええ、目的が一致したようなので、協力することになったんです。しばらくはそれでうまくいってました」
「それが、事態が急変したということですか」
「彼女の素性がバレたような雰囲気があったんですよ。それであなたに依頼としてこの件を持ち込んだわけです」
「なるほど。それなら、最初から教えて頂きたかったですね」須田は立ち上がった。「とりあえずお礼は言っておきます。私もあの事件の終わり方は不本意でしたから」
須田は前田に向かって軽く頭を下げた。
「もう一度チャンスを頂いて、ありがとうございます」




