70.
前田はとにかく歩いていた。そうしていないと頭がどうにかしてしまいそうだった。大平のことはよく知っていて、かなり信頼していた相手だったので、ショックは大きかった。そして、当初考えていたよりも、はるかに困難なことになってきていることがわかった。
そうして、どれくらい歩きまわったのかわからなかったが、いくらか落ち着いてきたところで、前田は病院に足を向けた。三島は病院に戻っているだろうが、今となってはそれだけでは不安だった。
病院に到着して受付に行ってみると、何か妙な雰囲気があった。
「すいません、何かあったんですか?」
前田の言葉に、受付の人間はうさんくさげな目を向けた。しかし、よほど色々溜め込んでいたのか、おもむろに口を開いた。
「患者が行方不明でしてね。警察関連らしくて、色んな人が来すぎてまいってるところですよ」
「それは大変ですね。それで、その患者さんはまだ戻ってないんですか?」
「さあ、戻ってないんじゃないですか? 少なくとも私は見てませんけど」
前田は受付から離れて、待合の椅子に腰を下ろした。あまりにもうかつな自分の対応を悔いていたが、背後から突然声をかけられた。
「三島さんのお知り合いですか?」
前田が振り返ると、スーツを着た場違いな女が立っていた。
「あなたは?」
「なるほど、知り合いですね。それなら、少しあっちで話をしましょうか」
女はタバコを取り出しながら外を指した。
「ああ、それから、私は木村っていう探偵です」女は前田がついてくるのを確信しているかのように、体の向きを変えた。「先に行ってますから」
前田は木村の後姿を見送ってから、しばらくの間、座ったままで動かなかった。いきなり声をかけられて混乱していた。しかし、結局は立ち上がった。今この状況では、どんな情報でも欲しかった。外では木村が盛大にタバコをふかしていた。
「さて、それじゃ、あの娘とどんな関係なのか聞かせてもらえる?」




