68.
鍵が鍵穴に挿し込まれて、鍵が開けられる音が部屋に響いた。須田は厚手のグローブをはめて、すぐに行動を起こせるようにしていた。
ドアが開けられて、一人の男が部屋に入ってきた。須田はすぐに行動を起こさずに、よく観察をした。男は吉田だった。吉田は部屋に三島が居ないのに気づくとドアを勢いよく閉めた。
「清水さん、なぜあなた一人なんです?」
須田はその背後でゆっくり動いて、ドアに背中を預けた。そして、おもむろに口を開いた。
「あなたのゲストは、本来居るべき場所に居ますよ」
吉田は驚きのあまり声も出ず、振り返るのがやっとだった。
「いつかのバーの事務所以来ですね、吉田さん。まあ色々あったようですが、どうですか、調子は?」
「なんでここに?」
やっとの思いで声を出した吉田は、今にも倒れそうなくらい顔色が変わっていた。とてもまともな話ができるような状態には見えなかった。それはさらに悪化することになった。
「おい、ハゲの腐れ弁護士が来たんだろ、入るぞ」
ドアをノックする音と同時に、三山の声が響いた。須田はドアから離れて、三山を迎え入れた。吉田は気の毒なくらいひどい状態になっていた。
「なあ安心しろよ、俺が興味を持ってるのは、お前みたいな雑魚の外道じゃない。親玉だよ、お前さんのボスだ」
三山は、よりひどい状態になっている吉田の肩に手を置いて、笑顔になった。
「知ってることを全部吐いたら、俺の前から消えてくれるだけでいい。簡単だし、いい条件だろ? ああ、刑務所に行くんでもいいぜ、そのほうが安全かもな」
「そんなんじゃ、話せるものも話せなくなるぞ」
須田はそう言って、三山の手を吉田の肩の上からどけた。そして、吉田をソファーのほうに誘導してやった。
「まあ、とにかく座って落ち着きましょうか」
吉田はなんとかうなずいて、崩れるように清水の向かい側のソファーに沈み込んだ。三山はその様子を見て、軽く舌打ちをした。
「まったく、手のかかる奴だな、おとなしく三流弁護士やってればよかったのによ。話が終わるまで倒れたりするんじゃないぞ」
三山は腕を組んで、吉田を監視するようにソファーの傍らに立った。須田は清水の隣に腰を下ろして、手帳とボールペンを取り出した。
「さて、とりあえず事実の確認から始めましょうか」




