54.
「お前のほうでもシナリオは書けてるんだろうけどな、まあ、整理のためにも端折らずにおくぞ」
三山はおおげさに咳払いをした。
「まず、前田という男は、ある名士の息子だそうだ。もっとも、母親は公式な妻の立場じゃないんだけどな。それでだ、父親違いの兄弟が昔ドラッグ絡みで殺されたそうなんだな。まあそのドラッグの元締めが奥らしいんだが、なんとも泣けることに、その兄弟の敵を討とうとしてるらしい」
「感動的だな」
「そうだろ。しかもただ感動的なだけじゃなくて、なかなか大河ドラマ的なんだ、これが。前田は昔に失敗した探偵にもう一度チャンスをやろうとしてるんだそうだ」
三山は実に楽しそうだった。
「実にありがたい話だな」
「その探偵は今のところ、なかなかの働きをしてるようでな。それなりに満足してるらしい」
須田は黙って首をすくめた。
「ただな、どうもその探偵があまり協力的じゃないふしがあって、あろうことか依頼人の詮索をしているうえに、情報を隠していると、いうわけだ」
「それで街の名士たるお前を頼ったと」
「最初から頼ろうとしてたんじゃないか? 俺のほうから先に接触したんで、多少不意をつかれたようだったけどな。でも素直だったぜ」
「嘘は無しか」
「それほど無かったんじゃないか? 俺のことを下手な嘘が通用する相手だと舐めてるなら、わざわざ相談しようとも思わんだろ。まああれだな、この野郎はかなり周到な奴だ。驚くほど良く調べてる。それになかなか用心深い」
「完全に足跡を消すことなんてできない。しつこくやってれば何か出てくる」
「そりゃ仕事の心得か? まあこいつの場合当たってるんじゃないかね。お前、以前は表で動いてなかったんだろ」
「ああ、そうだ」
「それを調べて利用しようっていうんだからたいしたもんだ。怖いねえ、人間の執念は」
「で、お前のほうからは何を要求した」
「それは蓋を開けてみてのお楽しみってやつだ」




