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50.

 個室タイプの居酒屋で、前田の向かい側には長身で頭の薄い男が座っていた。

「電話ではすっかりおなじみかと思いますが」男は名刺を前田に差し出した。「弁護士の吉田と申します」

 前田は無言で名刺を受け取った。名刺には吉田のにこやかな写真が印刷されていた。

「まるで、まともな弁護士みたいですね」

「いえいえ、まともな弁護士ですよ」

 吉田は名刺の写真のような笑顔で前田の言葉に応じた。

「つまらない誤解や先入観はお互い捨てましょう。こうして直接顔を合わせたわけですから、今までの経緯は置いといて、建設的な話をするべきではないでしょうか?」

「そう、今まで隠していたことを話してもらいたいもんですね」

「それはお互い様じゃないでしょうかね、前田さん」

 吉田は笑顔のままで前田の目をまっすぐに見た。前田は無表情に目を合わせた。

「そもそも、今回のことをややこしくしたのはあなたでしょう。穏やかにおさめる責任というものが少しばかりあるような気がしますね。これ以上何かが起きる前に」

「あんた方には色々面倒があったんでしょうが、こちらには特別面倒なことはありませんよ。責任と言われても、意味がわかりませんね」

「とぼけますか。まあ、それもいいでしょう。こちらとしては、あなたが思い通りに動いていただければいいんですから。何を考えていようとね」

「何か考えていたところで無駄だと言いたいんですか」

「おや、何か考えていらっしゃると。それは興味深いことですね」

「大したことはありませんよ」

「そう、平均寿命から考えれば、5年という時間などは短いものですからね。まあ、場合によりけりといったところかもしれませんが」

 吉田は薄笑いを浮かべ、前田は無表情のまま、2人は黙っていた。吉田がその沈黙を破った。

「前田さん、ひょっとすると、我々とあなたの利害は競合しないかもしれませんよ」

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