49.
「お前らまた何かやってるのか。ほどほどにしとけよ」
須田が石村のところに来ているのを見て、石村の上司の課長が上機嫌そうな様子で声をかけた。
「ええ、わかってますよ。でも今回はなかなか面白そうなことになりそうなんです」
「何なのかは知らんが、あまりやりすぎないようにな。特に石村、状況が整うまでは首を突っ込みすぎるんじゃないぞ。それから、仕事に支障が出ないように注意しろ」
「了解」石村は笑いながら課長に向かって手を振った。その笑いを引っ込めて須田のほうに向き直った。「それじゃあ、吐いてもらおうか」
「いや、これから話すことはただの独り言だ」
須田は紙コップのコーヒーを一口飲んでから、下を向いた。
「まずはあの三島理恵。偽名でこの街に越してきたんだが、なぜか今は本名を隠していない。この間死んだヒモの女だったということになってる。そのヒモが死ぬか殺されるかしたあと、自宅と病院で襲われた。おそらくドラッグ絡みでだ」
「あの女は口が堅くていけないな」
石村が口をはさんだが、須田はそれを無視して独り言を続けた。
「重要なのは引っ越してきた目的だ。偽名を使ったということは、この街に来たことを知られたくなかったんだろう。だが、今回の舞台に登場した時には本名で出てきた。なぜ最初は偽名で、途中から本名にしたのか。どういった状況だと、こんな行動が都合がよくなるのか」
「そうだな、2回も襲われてるとなると、それ以前から狙われていたというのも、なさそうな話じゃない。そう考えると、最初は狙いを逸らすために偽名で行動していたのが、何らかの理由で自分の安全が確保できたと考えて、狙っている相手に圧力をかけるためにわざと自分の存在を誇示した、なんて話もありかな」
「それとも、身の安全よりも、その相手に対する圧力というのが重要だったのかもしれないな。リスクを負うだけの価値はあると思ったのかもしれない」
「そう考えたきっかけは何だったんだろうな」石村は微笑を浮かべて、コーヒーを一口飲んだ。「焚きつけた奴がいるんじゃないか?」
「かもしれない」
「心当たりは、あるよな」
一瞬重い空気がその場を支配した。
「断定はできないが」
「それじゃあ、本格的に口を滑らせてもらいたいな」




