48.
前田はどうするあてもなく、夜の街をぶらぶらと歩いていた。今は明らかに八方ふさがりの状況だ。あの探偵は何かをつかんでいるようだが、話す気は全くないようだし、それはあの電話の男も同様だった。
しかし、筋肉男が逮捕されたとなると、話は違ってくるのかもしれない。そこで、前田の携帯が鳴った。例の男からのようだった。
「あんたの連絡役がへまをやったらしいですね」
「おや、もうご存知でしたか。まさか、あなたが一枚かんでるんじゃないでしょうね」
「本当はそうさせてもらいたいくらいですよ」
「まあ、冗談はこれくらいにしておきましょう」そう言いつつも、男の声には笑っているような雰囲気があった。「あんなのなら何人でも用意できますからね、弾切れの心配はいりません」
「それで、何が言いたいんですかね?」
「さあ、それよりも、あなたに連絡役の件を教えたのはあの探偵ですよね、仕事熱心で結構なことです。ああ、それから、例の男がくだらないことを言ったと思いますが、忘れてもらってかまいませんよ。こうして電話に出て、知っていることを教えていただければ十分です」
「心境の変化ですか」
「どうとってもらってもかまいませんよ。それでは失礼します」
男は電話を切った。その内容を反芻しながら考え込んでいる前田の横を、石村が携帯電話を取り出しながらすれちがった。
「ああ、お前か。少しは溜め込んでるもの吐く気になったのか?」
「あいにく、まだ状況が許してくれそうにない」
「またそれか」石村は露骨にため息をついた。「それじゃ、この電話は何だ」
「まあ、その許してくれない状況をなんとかするためには、多少口をすべらせる必要がありそうなんだよ」
「なるほどね。それなら、2時間後くらいに署に来てくれ」
「また午前様か」
「そうだ、俺は立派な公僕なんだ」
須田は何も言わずに電話を切ったが、石村には須田が笑っているのがわかった。




