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47.

 須田は目の前にあるウイスキーが注がれたショットグラスを眺めていた。三島が偽名で引っ越してきて、それ以外では本名を隠そうとしていないのはどうしてなのか。この街に来てからは、隠す必要がなくなったからなのかもしれない。静かに入ってきて、派手に動く。しかし、なんのために。

 そして前田はこれにどう絡んでくるのか。あの2人は共謀しているのか、あるいは全く違う目的で、偶然関わることになっただけなのか。2人の目的がわからない今の状態では、何とも判断のしようがないことだった。

「だいぶお悩みのようですね」

 バーテンダーがピーナッツの小皿を差し出しながら、須田に声をかけた。須田は軽くうなずいてそれを受け取った。

「この間からオーナーと話してることですか?」

「ああ、そうだ」須田はピーナッツを一つかじった。「ところで、計画的なことと偶発的なことはどっちが頻繁に起こるかわかるかい」

「それは偶発的なことじゃないですかね。この店に計画的に来る人しかいなかったら、とっくにつぶれてますよ。色んなお客様がフラッと来てくれるからやっていけるんです。常連さんだけだとけっこうつらいですよ、こういう商売は」

「世の中、偶然だけで動いてるんじゃないかと思いたくなる時もあるな」

「そうですね」バーテンダーはさわやかな笑顔を浮かべた。「案外そうかもしれませんよ」

「そうでないことを祈るよ」

「よお、儲かってるか」三山が勢いよく戻ってきて、店内の客に手を振りながら大声でしゃべった。「アル中にならない程度にたっぷり飲んでいってくれよ」

 三山はそのまま須田の隣のストゥールに腰掛けた。

「それで、考えはまとまったのか?」

「いいや。問題が俺の依頼人と三島の接点だというのは予想できるんだけどな、それだけだ」

「おいおい、お前の依頼人の事情なんて聞いてないぞ。まあ、教えろと言っても、しゃべりゃしないよな」

「片付いたら話してもいい」

「そこまでもったいぶられると、どうでもいい話でも聞きたくなってくるな」

 須田は一気にウイスキーをあおった。そして、空のグラスを見つめながら口を開いた。

「実際のところ、話せるだけの材料がないだけだ」

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