46.
まだ時間が早かったが、須田は三山の店の一つに足を運んだ。ちょうど顔なじみのバーテンダーが店の前を掃除しているところだった。バーテンダーはすぐに須田に気がついた。
「あれ、今日は早いですね」
「ああ、三山はいるかな」
「オーナーなら、中で帳簿と格闘してますよ」
「それなら、一足先に入らせてもらうよ」
須田はドアを開けて店内に入った。店内では三山が帳簿とにらめっこをしていた。三山は須田に気づくと、顔を上げて脇に置いてある帳簿を手にとって差し出した。
「まあちょっとこれでも見てろ、もうすぐ一段落するから」
須田は黙って帳簿を受け取って、三山の向かい側に腰かけると、なんとなくそれを眺めた。5分ほど経ってから、三山は帳簿を閉じて須田の顔をじっと見た。
「で、何かわかったのか?」
「まあ、わかりかけてきたところだ」
「悠長だな、こっちであったことは知ってるんだろ。どこのどいつか知らん相手は焦ってる。逃げられるかもな」
「どうだろうな。ここまでやるからには、あちらさんにも何か事情があるんじゃないか?」
三山は須田の問いに笑みを浮かべて、テーブルの上の帳簿を軽く叩いた。
「本当は昨日話そうと思ってたんだが、出張の邪魔をしちゃ悪いと思って黙ってたもんでな」
「なにかわかったのか」
「被害者の三島って女な、あれは怪しいぞ」
「どこがだ」
「まず、最初に襲われたのは自宅だったな。あれは分譲の家なんだが、持ち主が転勤なんで貸家にしていたらしい。それが半年前の話で、契約者は清水裕仁っていう中年の男だったそうだ。同居人は娘が一人」
「それが三島理恵なのか」
「契約上は清水理恵ということになってる。何か必要があってそんな面倒くさいことをやってるんだろうよ、何かから逃げてたとかな」三島は笑みを消して真顔になった。「問題はその理由だ。命まで狙われるってのはよほどのことだろう」
須田は黙り込んで、考え込んだ。三山はその様子を見て、帳簿を数冊抱えて立ち上がった。
「ま、せいぜい頑張って考えてくれ。俺はちょっと出てくるから、その間店の売上げに貢献しておいてくれよ」




