45.
気のせいかもしれないが、前田は電話の向こうの男に焦りがあるように感じられた。
「あの探偵とはもう会いましたか?」
「いいや、残念ながらまだですよ。どのみち今はこの街にはいないようですが」
「ほう、どんな用件なんでしょうかね」
「さあ、私の依頼よりも重要なことなんでしょう」
「所詮、ああいう犬は金の臭いに惹かれますよ。あなたにとっては残念なことでしょうが」
「さあね」
前田の素っ気ない返事の裏にある感情を読み取ろうとしているのか、男は不自然にしばらく沈黙した。
「それも含めて後ほどお教えいただけるとありがたいですね。では、失礼しますよ」
男は電話を切った。前田は携帯をしまってから時間を確認した。すでに午後4時をまわっていた。前田は須田に電話をかけた。
「前田ですが、もう戻ってますか?」
「ええ、連絡が遅れて申し訳ありません。ちょっと放っておけないことがあったので」
「それは、依頼したことと関係があるんですか?」
「そうですね、おそらくあなたはすでにご存知だと思いますが、あなたもよくご存知の三島理恵という女性が最近、殺されそうになりました。」
前田は何も言わなかった。
「1回ではありません。最初に襲われた後は入院していたんですが、昨夜また襲われたんです。犯人は同じ男で、今は警察が確保しています」
「昨夜襲われたというのは初耳です。犯人は、どんな男かわかりますか」
「小柄な筋肉男ですよ。それなりのチンピラのようですが、今回はこの男にも依頼人がいるようですね」
「その、依頼人というのは何者なんでしょうか」
「わかりませんね。前田さんの方こそ、ご存知じゃないんですか?」
「いえ、知っていたらいいとは思いますけどね」
「そうですか。あなたは三島さんが最初に襲われたのはご存知のようなので、何か私とは別の情報源があると思ったんですが」
前田は返答に詰まった。昨夜襲われたというのは初耳です、と言ったのは、三島が1回は襲われたのを知っていると白状したようなものだった。それにしても、須田はなぜそのことを教えなかったのか。
「ああ、何もおっしゃらなくて結構です。できれば直接お会いしたいのですが、今はまだ私のほうも準備ができていませんから」須田は前田の反応をうかがうように一呼吸間を置いた。「申し訳ないのですが、それまでは私に任せて待っていて頂きたいのです。色々と動きたいこととは思いますが」
前田の頭の中は須田に対する疑念が渦巻いていた。いったいこの探偵は何をどこまで知ってるのか?




