44.
「須田だ」
「ああ、用件はわかってるから」木村は電話の向こうで溜息をついた。「頼まれた通り彼女の所には行ってたんだけど、ちょっと部屋を空けた隙を狙われたというわけ。病院の職員に代わってもらってたからなんとか助かったけどね」
「そうか、怪我なんかは、大丈夫か」
「ええ、おかげさまで。それから、私は公式にはあそこにいないことになってるから、そこんとこよろしく」
「わかった。迷惑はかけない」
「もう十分迷惑だから気にしないでいいから、それじゃ」
電話を切った須田に向かって、石村がにやりと笑った。
「お前の手回しがいいおかげで助かったよ」
「それなりに危なかったようだけどな。それで、乱入した男の写真は」
石村は机の上に置いてあったデジタルカメラを手にとって電源を入れてから、須田に差し出した。
「ちょっと写りは悪いけどな、顔を確認するのはできるだろ」
カメラのモニタに写っているのは、間違いなくあの筋肉男だった。
「こいつの詳しい情報はあるのか」
「もちろんだ。まあそれなりに悪だなこいつは。傷害やら脅迫やら不法侵入やら、なかなかのキャリアを持ってる」
「そいつが立派な個人事業主だとは思えないな」
「ご名答。この野郎は体のいい使いばしりでしかない。ただし馬鹿じゃない。口を割ったことはないようだし、元につながるような証拠も残していない」
「だが、今回は違いそうか」
「ああ、殺し絡みとなるとな、こっちとしてもただで終わらせる気はない。引っ込んでる奴を燻りだしてやる」
「しかし、2回も失敗したとなると、あっちもおとなしくは引き下がらないかもしれないな」
「つまり、1回目も今回の野郎だったんだな」
「そうだ。泳がしておいて正解だったよ」
石村は須田の目をじっと覗き込んだ。
「それは危険だぞ。何を考えてるんだ?」
「対策はとっておいたし、実際大事には至らなかった。結果的には問題はないだろう。それに、しっかり根まで掘り下げる必要がある。それだけの深いものが今回の件にはあるはずだ、確証はないけどな」
「確証がないってことは、当然その事情をしゃべる気はないわけだよな。まあいい、こっちは手持ちの駒でなんとかするさ。しゃべれる状態になったらいつでも吐いてかまわんぜ」
「そうしよう」




