24.
安いだけが取柄のビジネスホテルの一室で、前田は手提げかばんに色々な物を詰め込んでいた。写真やメモ用紙。異常な分量と言える資料の山だった。
ノックの音が部屋に響いた。前田はドアに近づいて、鍵が掛かっているのを確認したが、さらにドアをしっかりと押さえた。
「あなたに話があります。開けてもらいたんですが」
詳しくは思いだせないが、前田にはなんとなく聞き覚えのある男の声だった。しばらく沈黙があった。
「連絡先は置いていきますから、後で連絡をいれるようにお願いしますよ、前田さん」
声の主が去っていったあとも、前田は用心して、なかなかドアを押さえた手を放さなかった。ずっとそうしているわけにもいかないので、前田は手を放して、荷物の整理を再開した。
荷物を大体詰め終えると、前田は胸の内ポケットから紙に包まれた何かを取り出した。妙に慎重な手つきでそれを確認すると、かばんの中に詰めた書類の中に無造作に突っ込んだ。
前田は電話を取り出して、須田の事務所の番号をダイヤルした。
「はい、須田探偵事務所です」
「あの、前田です」
「ああ、警察のほうはもう済んだんですか?」
「いえ、まだなんですが、ちょっとそのことも含めて、相談、したいんですが? 今からそっちに行っても大丈夫ですか?」
須田は一呼吸おいた。
「ええ、大丈夫です。お待ちしていますよ」
「それじゃ、2時間後くらいに行きます」
前田は電話を切った。かばんをしっかり閉じてから、ドアを開けてフロントに向かった。




