23.
須田は事務所に戻ると、手帳を開いて、今回の件の整理を始めた。最初はつまらない仕事だと思えたものが、事態が進展すればするほど、複雑で根が深いものであるのが明らかになっていった。手帳に乱雑にメモする手を止めて、須田は腕を組んで天井を見上げた。
こうなると、前田が額面通りの人物であるとは到底考えられないことだった。偶然から始まったとは考えられないほど、色々なことが立て続けに起きすぎる。前田の依頼が引き金になっていると考えるのも、それほど荒唐無稽とも思えなかった。
そうして、須田が物思いに沈んでいると、ドアをノックする音が響いた。
「どうぞ、開いてますよ」
ドアを開けたのは小柄で筋肉質な男だった。男は不安気に後ろを振り返ってから、ドアを勢いよく閉めて、すがるような目つきで須田を見た。
「あんた、探偵だよな」
「ええ、そうです」
「あんた、最近死んだヒモのことを調べてただろ」
須田は黙ったまま、特に何の反応もしなかった。男はそれにはかまわずにしゃべり続けた。
「実はさ、俺はそのヒモに使われてたんだよ」
一瞬、間があった。須田は男の目をちらっと覗き込んだ。
「どこかでお会いしましたかね?」
「いやいや、あんたとは初対面だよ。俺の方では知ってたけどさ。ほら、一応雇い主の敵というか、まー、そういんもんだからよ」
「なるほど。それで、どういったご用件です?」
「わかってんだろ。俺はあいつのネタを持ってる。あんたはそれが必要な依頼人を抱えてんだろ? だからよ、俺があんたにネタを渡す、あんたはそれを依頼人に渡して報酬を手に入れる。で、それを俺にちょっとまわしてくれる」
「何の話かよくわかりませんが」
「なあ、そうとぼけんなよ。俺はあんたの依頼人にも会ってんだぜ」
「仮にそうだとしても、調査対象がなくなってしまっては、依頼は取り消されるでしょうね。あなたの期待するような報酬とやらは手には入りませんよ」
須田の愛想の無い物言いに、男はにやりと笑った。
「そりゃ、あんたが受けた痴話げんかみたいな依頼だったらそうだろうけどな。実際のところ、裏があるかもしれないんだぜ? この件は」
自信満々な表情を浮かべる男に、須田は真剣な表情になった。
「それでは、聞かせてもらいましょうか」




