16.
結局、須田は一通りのことが終わるまで、石村と一緒に現場でねばっていた。三山はすでに帰っていた。石村は自分のPDAで、住民からの聞き込みと現場検証の内容を整理していた。
「いいのか? 私物に捜査情報なんか入れといて」
須田の言葉に、石村は顔を上げてニヤリと笑った。
「お前みたいに手書きなんてごめんだね、俺はそんなアナログじゃあない。それにな、たぶん近いうちにおまわりはみんなこういうのを持つようになるぜ」
「ご賢察だな」
「まあな。ところで、お前はまだこの件を追うのか?」
須田はちょっと首を傾げて、石村の目を覗き込んだ。
「依頼のことを知ってるのか?」
「三山さんから聞いたんだ。男の嫉妬を満足させる依頼なんだろ」
「まあな、それだけじゃないんだが、つまらない仕事さ。ただ、ちょっと複雑になっててな」
「依頼人の彼女とやらか。また持病らしいけど、商売よりも好奇心を優先するのはやめとけよ」
須田は首を横に振った。
「人の人生がかかってるかもしれないことをおろそかにはできない」
「硬いねお前は」石村は楽しそうな笑みを浮かべた。「ま、俺としてもそのほうが助かる。事情がわかってて信頼できる人間がいるのは大いに助けになるからな」
「警察も大変らしいな」
「出費は抑えろ、実績は残せ、人間が足りないぶんは時間で補え。上からも世間からも風当たりが強くてな、宮仕えも楽じゃない」
二人は顔を見合わせて、心の中で溜息をついた。
「それで、聞き込みの成果は?」
「予想通りだ。住民は誰も管理会社に連絡なんてしてない。仏さんの生業を考えれば、近所とのつきあいがあったとは思えないし、当然だろ」
「なるほどな。俺の線のほうが有力そうだ」
「そういうことだ。こっちが動けるだけのものをつかんでくれると助かる」
「ああ、わかった」
「依頼人の著しい不利益にならない限りは、だろ」
石村は苦笑いで付け足した。須田は目をそらして空を見上げた。
「かもな」




