15.
翌日、須田は早朝の電話で起こされた。
「はい、須田探偵事務所です」
「お前か、ちょっと変わったことがあったぞ」
普段より声を低くした三山だった。須田は少し体を緊張させた。
「なんだ?」
「どっかのマンションでな、首に輪っかをひっかけてぶら下がってる野郎が見つかったんだってよ」
「誰のだ」
「我らのヒモだよ。あわれでちんけなバカだよ」
須田はしばらくの間、黙って視線を宙にさまよわせていた。
「これでお前さんの仕事もなくなるんじゃないのか? まあ、とりあえずヒモ野郎のマンションまで来い。お前の同期はもう来てるぞ」
「ああ、すぐ行く」
須田は受話器を置いて、すぐに事務所を出た。いろいろ考えたかったが、何の材料もなく考え込むような無駄はしないことにして、とにかく現場に急いだ。
マンションの前には、少数の警官と多少の野次馬がいた。刑事らしき人間と話していた三山は、須田に気づくと手招きをした。
「早かったな」
「本当だ。お前は昔から耳と足が早いよな」
刑事、石村健三は三山の言葉に頷きながら、須田に笑顔を向けた。
「警察学校の時から変わらないな」
「もしその通りだったら、今頃は立派に出世してるだろうな」須田はにこりともせずに首を振った。「それで、何がどうなってるんだ?」
石村は肩をすくめた。三山が頷いて口を開いた。
「刑事さんの口が軽いというのはちょっとまずいからな、俺から話そう。それとも、質問を受け付けたほうがいいか?」
「これは自殺だったのか? そうだとしたら随分発見が早いようだけどな」
「発見が早かったのは、管理会社に匿名の連絡があったからだよ。それから、自殺か他殺かはまだわかってない」
「怪しいタレコミだな。どんな内容だったんだ?」
「おたくの管理してるマンションの、五階に住んでる安田という男と連絡がとれないから確認してみて欲しい、っていう切迫した雰囲気の電話だったそうだ」
「それで部屋に入ってみたら、感動のご対面というわけか」
「そういうことだ」
「まあ、そういうことだ」黙って話を聞いていた石村が口を開いた。「詳細はまだ全くわからない。俺としては、他殺の線が強いと思うけどな。現場検証も検死も終わってないから、ただの勘だけどな」




