100.
前田は悩むのをやめた。奥に協力して、知ることを知ったら奴を捨てる。そう決意して喫茶店を出た。
しかし、その決意はすぐに揺らぐことになった。
「前田君、少し話したいことがある」
おそらく前田を待ち構えていた大平が声をかけてきた。
「今更、何ですか」
「君は全てを明らかにして見せると言ったが、今でもその気持ちに変わりはないかな?」
前田は少し言葉に詰まった。大平はそれに気づかずに続けた。
「もし、そうなら、言っておきたいことがある」
大平は前田の目を覗き込んで深呼吸をした。
「私はね、もうこんなことは終わらせてもいいと思ってる部分もあるんだ」
「どういうことですか?」
「言葉通りの意味と思ってくれればいい。昔の繰り返しにはしたくないということだよ」
「つまり、今回はうやむやにしないで決着をつけるわけですか」
「そうだ。しかし、先生は守る。それだけできればいい」
「虫がいい話ですね」
前田の皮肉に大平は首を横に振った。
「そんなことはない」
「なにがそんなことはないんですか!」前田は大平の胸元をつかんで声を荒げた。「守るっていうのは、前みたいに都合のいいところだけ切り捨てて奥みたいな奴を野放しにするってことでしょう! それが繰り返しじゃなくてなんだって言うんですか!」
人通りの少ない道では、二人に注目する者はいなかった。大平は前田の手をゆっくりと自分の胸元からどけさせて、一歩下がった。
「私が生贄になればいい。先生に被害がないわけじゃないが、それほどのことじゃない」
「つまり、太平さん。あなたがそうしなければ、親父は無実のような顔はしてられないわけですね?」




