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ただ知らなかった

きっと回想があるのだとしたら、それは火群のものだろう。なぜなら、俺は火蓮に殴られた思い出という名のトラウマしかない。そして、火蓮はその逆の立場にいたはずだ。


「ふぅー」


俺は小刻みに揺れ始めた身体を鎮める為に、一呼吸置く。

さて、



「逃げたら追いかけるわよ」



退路を断たれた。


一瞬の隙をついて逃げる手はずは、昔馴染みという忌まわしき絆によって俺の絶命へと繋がる。


「危なかったね、火蓮は昔と比べると本当に強くなったから逃げたら瞬殺されてたよ」


笑いながら言うことじゃないが、逃げなくてよかったと本当に思う。そういえば、火蓮は新入生の中で【限界解除率】第一位を誇るのだった。


「久しぶり」


「お、お久しぶりです」


「…………」


あっれー、おかしい。丁寧に返事を返したはずなのに、沈黙の中にイラつきが垣間見えるぞ。


「ところで、さっきのは本当なの?」


「さっきの?」


「【限界解除】できないっていう、あれ」


「嘘を吐いてもしかたないじゃないですか、ぐべっ」


突然、腹に火蓮のつま先が突き刺さる。


「なぜっ!?」


くすくすと陰で笑う火群に腹が立つ。双子でも兄だろう、なぜ妹の暴挙を注意、もとい止めようとしないのだ!


「素質がないのはいいとして、なんであんなことまで言ったの?」


「あんなこと?」


俺の疑問には答えようとはせず、質問が続く。その質問に俺よりも早く尋ねたのは火群だった。


「こいつ、わざわざあんな大衆の前でふざけたことを言ったのよ」


違う!


俺は決してふざけてあんな事を言ったわけじゃない!


純粋に……。


「ふざけたこと……。【限界解除】ができないこと以外に退学になるようなことを人が大勢いるところで言った……。いや、推測するに【限界解除】できないだけなら、まだ可能性が残っていたはずなのに、その可能性すらも壊すよう自ら九煉が言ってしまった」


純粋に知らなかっただけなんだ!


そう、あの言葉の意味を――。


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