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唐突に蘇ったのは崢の言葉だった。
おまえは死んじゃならねえよ。
彼は確かにそう言った。
えなが篤史を見つめている。突如として恋人を奪われ、それでも気丈に振る舞ってきた、肝っ玉の据わった、十六歳の少女。恋人への想いがついに破裂して、線路の上へ、篤史を誘いこもうとしている。
電車が近づいてくる。轟音を伴いながら。
マウンドに戻れよ。
崢は言った。笑って。
託すよ、おまえに。
そう言って篤史にボールを託した。
篤史はすっと手を伸ばし、えなの手を握った。かさかさに乾いた枯葉のような感触を手のひらに感じた。
猛スピードで電車がゆく。
「同士だ」
えなが笑った。
「あたしら、あいつを想う、同士」
手を握り返されたような気がした。
完