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眼球も鼻の奥も喉元も、どこもかしこも痛かった。もはや焼けているのか、それなのに寒いのであろうか身体の節々が小刻みに震えていた。
「これでもう、つらい思いをすることはない。消えたよ」
穏やかに笑んで崢は言い、ああ、と篤史は思うのだ。またやはり、時よ戻れ、と。自分が兄の首を絞めようとする直前に。どうか、時よ、戻るのだ。
不意に崢の顔からすっと笑みが消えた。
「余計なことを喋るんじゃねえぞ」
篤史の目を見据えて崢は言う。
「自分も関与してるなんて言ったら、今度はおまえを殺す。出所後、覚悟しておくんだ」
消えてしまう、消えてしまう。早く崢を捕まえなければ。この手で、捕らえなければ。そうしなければ崢はここから消えてしまう。
ふっと、だしぬけに崢が笑った。
「子供達のことはえながやってくれるだろう」
実に穏やかに笑みながら崢はそう言った。魚の楽園に崢は魚達を置いてきた。突如として篤史の目から涙が溢れ出した。
「あいつは児童養護施設で暮らしている。もともと俺もそこにいた。そこであいつと出会った。ヤワな女じゃねえから俺がいなくてもたぶん大丈夫だ。だがもしものことがあったら守ってやってほしい。もっともあいつはおまえに守られるなんてプライドが許さねえだろうがな」
もはや遺言の類だ。ああ、神様、などと篤史は思った。神などまともに信じたこともないというのに。それなのに全身を震わせ、目からぼろぼろと涙を零し、篤史は神を思った。
崢は笑っている。笑っているのだ。この期に及んで、実に飄々と。いつもの崢なのだ、いつも篤史のそばにいた、崢。
「さ、通報するぞ」
突如として終わる。終わるのだ。