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「檻の中が似合うのは俺だ」
いつもと何も変わらない。崢はそう言って笑うのだ。きっと自分は夢を見ているのだろうと篤史は思った。なんともタチの悪い夢だ。
「浅ましい奴だった。おまえを羨みさえした。実の兄にやられることがどれほどのものなのか想像すらせずにな。ただおまえが羨ましかった。先生に愛されてるおまえがな」
自嘲気味に、であるか。言って崢はふっと笑った。しばし目を伏せそれから実にゆったりとそれを開けると、
「いつか一緒に暮らそうなって言われてた。それを信じて待ってた。大好きだった」
崢は言った。
崢の背中の向こう側に兄が転がっている。ぴくりとも動かず。あんなにも存在感を放っていた身体が今ではただの物体なのだ。
「一方的だった。一方通行だった、ずっとな。ほかにいるなって思った。だから視線を追った。後をつけもした。そのうちに分かった。おまえを見る目が明らかに違ってた。ああ、これはまじなやつだって思った。俺は気をそらす道具にされていただけだった。だから懲らしめてやろうと思った。それでおまえに近づいた。そして見事にぶっ壊した。なのにおまえは俺を恨みもしなかった。しまいには会えて良かったなんて言いやがった」
ああ、時よ戻れ。ちょっとバイク見に行ってくれねえか、崢がそう言った直後に。いいや、自分が兄の頭をバットで殴りつける直前に。
「おまえだけが檻に入り、俺は何も変わらず青空のもとにいる、そんな現実には耐えられそうになかった」
そう言って崢は笑う。