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だしぬけに崢がエンジンを切った。そしてヘルメットを外し、篤史の顔をじっと見つめてきた。そして言った。
「死のうと思えば死ねる。ガードレールに突っ込めば崖の下に落っこちるだろう」
車が何台も通り過ぎてゆく。タイヤがコンクリートを擦る音が過ぎ去っては現れ、現れては過ぎ去った。
「おまえが俺から手を離せば、それもまたな」
崢は言った。そうして、ふっと笑った。
なぜばれていたわけか。筒抜けなんだよ、と、その目は笑っている。
「けどな、」
崢は言うのだった。その目に慈悲のようなものを滲ませて。篤史の目をしっかりと見つめて。
「死ぬんならうまくやらねえと中途半端に生き延びるだけだ。痛えだけだろ。仮に一発で死ねたとしても死体がぐちゃぐちゃになったらみっともねえじゃねえか」
とにかく帰るぞ。そう言って崢は再びヘルメットをかぶった。エンジンをかける直前、ひとりごとのように崢が何かを言った。
おまえは死んじゃならねえよ。
そう聞こえた。