表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/122

14

 篤史は鼻をすすり上げる。腕で涙を拭った。それでも崢がバイクから降りて篤史のもとへ歩んでくることはなかったし、その手が篤史の頭や頬などを撫でることもなかった。だから篤史はなおも事実を伝える為に立ち上がり、崢のすぐそばまで歩を進めた。


 それはあまりにも静かだった。だから言葉が出なかった。崢の目はまさに凪で、月の明かりにぼんやりと照らされながらただ篤史の目を見ていた。


「俺はおまえを壊した」

 崢はそう言った。その言葉の意味するところなど聞き返さずとも分かった。

「知ってる」

 だからそう返した。崢の目はなおも篤史の目を見据えていた。

「知ってて、俺の為に?」

「うん」

「俺を恨みもせず?」

「うん」

「そうか」

 恨むことなどきっと忘れていたのだ。床にへたり込んで嗚咽を漏らした崢のあのさまが、先生は海の匂いがした、涙混じりのあの言葉が、あまりにも強烈だった。


 ふっと、崢の口元が笑った気がした。しかしながらその目には暗がりのようなものが広がっていた。

 何かを言った。それは波の音に巻かれて篤史の耳には届かなかった。

 だから聞き返す為に口を開こうとした。それを遮るかのように、

「行くか」

 崢は言った。ゆったりと、穏やかな笑みをその顔に広げて。

「ドライブだ」

 崢は言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ