第3話;夜鬼 (Vampire)-⑤
アクセス頂きありがとうございます。
拙い文章です、ご容赦ください。
「一人目が襲われた場所はこの辺りだ」
大通りから外れた薄暗く曲がり角も多い住宅路。学校からはさほど遠くない。
吸血鬼に襲われた一番目の被害者は、古宵高校二学年の女子生徒。
例の不良グループの一人、短気で口よりも手が先に出るタイプだったようだが、高校に入ってからは影を潜めていたようだ。もしかしたらリヴ学等の対人戦で返り討ちにあい、痛い目をみたのだろう。
「日常的にこの近道を通っていたみたい。戦闘するには窮屈な狭さだね」
一つの曲がり角の先を見ていた廿日春はそう言った。
数歩歩きながら携帯のマップで付近の構造を確認していた新井田も追加の情報を加える。
「<戦闘があったというよりは不意打ちされたようだ>」
「なるほど。リヴの相性が悪かったのかな?」
「<かもな>」
地図の把握に忙しいのか、アサヤの会話をさらっと流した新井田。
続けて綴は地面に何か落ちていないかを探しながらふと尋ねた。
「芽暮先輩とアサヤは昨日の朝、学校で妙な気配に監視されていることに気付いたんだよね?」
「うん」
「そしてそれが吸血鬼と判明したわけだ」
「そう」
「じゃー花波がアサヤを校内案内してた時、吸血鬼は誰を見てたんだろう」
「…………怖いこと言わないでよ、開」
「俺か廿日春さんか、あとは織さんの可能性もある」
「織さん?ってあの織さん?」
「そ、ミステリアスな織さん。あの場の近くにいたんだよね」
彼女が銃をぶっ放したことは内緒にしよう。裏で勝手に暴露してイメージを崩すのは、どうも陰口のように思えたので、そう廿日春さんと決めた。
確かに綴の言うように、吸血鬼が覗いていた時はその三人くらいだが。
「その場にいた俺らは全員一年生。もしターゲットだとしたら、吸血鬼の目的がより見当つかなくなる」
闇夜に忍び襲い掛かる吸血鬼が狙う標的は、不良グループのメンバーではないのか。
バトンの王子と尊敬される芽暮が襲われたのはなぜか。
・・・
「二人目は~、あ!ここだここだ!」
二十階層にやや及ばないマンションの地下駐車場。不法侵入するわけにはいかないので、出入りする自動車の邪魔にならない場所からその入り口を眺める。
吸血鬼に襲われた二番目の被害者は、一番目と同じく古宵高校二学年の女子生徒。
これまた同じく例の不良グループの一人、直接攻撃するのは控えめにして後ろで陰湿な発想を提供していた。今なお衰えることなく裏ではその才能を弱いものに対して発揮していたようだ。
「<被害者はどうやらアンリに逃げ込もうとして勝手に侵入したらしい>」
「組手なら勝算があったとか?」
「あり得る~。うちの高校は入試や定期試験で組手も一定以上求められるから得意な人は多いよ。吸血鬼が彼女を上回ったんだと思う」
なるほど、とアサヤは地下駐車場へ続く坂道の奥を見やる。坂の先、突き当りは曲がり道で壁となっており実際の現場は確認できない。
芽暮から聞いた吸血鬼像は、服は黒の上下、白い手袋を両手に着用、ウィンドブレーカーのパーカーをかぶり、その顔は水色の結晶。また、身長は芽暮より少し高いくらいで、姿勢が良くすらっと細身、ついでに胸も小さかったとの情報。
露出が少ないので背格好や胸はどうにでも細工できるだろうが、気になるのはやはり───。
「吸血鬼はやっぱりテロリストなのかな~?」
「テロリストたちがどうやって結晶のマスクを調達してるか分からないけど、吸血鬼が同じ技術を用いているならテロリストの可能性は高い。ただ………」
「<ただ?>」
三人の視線が彼へ向けられる中、まだ未確定な個人的な見解であることを話すべきか少々迷ったが続けた。
「例のテロ事件ではテロ組織としての指針と一体感を強く感じたのに対して、今回はあまりに私怨すぎる。つまり、テロリストの一員ではあるが個人行動をしている、もしくはテロリストを騙った模倣犯かもって。俺の勘だけどね」
「うん、アサヤのそれに賛同。誘拐や破壊行為もなさそうだし」
現場付近の写真を撮っていた綴は、そう同意して眼鏡越しにアサヤへ微笑みかけた。
闇夜に忍び襲い掛かる吸血鬼が狙う標的は。
組織の意向か、一方的な私情か、将又無作為か。
・・・
「<あった、この駐車場だ>」
大通りの横道を曲がって数分、二十四時間最大二千円の十台ほど駐車できそうなコインパーキングを新井田が指さす。人通りが多いわけではないが、歩行者や車は周囲にちらほら散見できた。
吸血鬼に襲われた三番目の被害者は、他所の男子高校に所属する二学年の生徒。
これまた同じく例の不良グループの一人、おらおら系で喧嘩自体はある程度強かったようだが、女性の頑丈さを前にダメージはそこまで与えられなかったと予想できる。あくまで対男性や人数要員。
「ま、容易に想像できるくらい瞬殺だったんじゃないかな~」
「不良グループだとしてもリヴレスだしね、抵抗できるとは想像できない」
「元リヴレスとしては、ケガで済んで良かった、だな」
ここも何かが壊れているとか、何かが落ちているとかは無さそうだ。空き缶やタバコが落ちてるくらい。
腕を組んで斜め上を凝視して停止している新井田にアサヤは視線を送った。
その白いフルフェイスに文字は書かれていなかったが、彼なりに考えていることがありそうだ。
彼の視線に気付いて、ちょっと視線を合わせた新井田はその考えをちょっと漏らした。
「<吸血鬼のリヴを考えていた。強度に変化を生み出せる白めの生成物、タケノコみたいな形状と伸縮。一つそれっぽいのは思いついたが、あんまりしっくりきていない>」
「マジか教えてよ雪兎」
「<シリコンゴムだ>」
「シリコンゴム?あの日用品でよく見かけるやつ?………え、いい線いってるんじゃない!?」
新井田に近寄った三人が輪になって彼の顔面の文字を読む。
リヴ博士とも呼ばれた彼はここまでずっと該当するリヴを探していたに違いない。
アサヤもシリコンゴムと聞いた際にあり得そうと思った。
それでも「<うーん>」と画面いっぱいに表示した彼は引っかかっていることを言う。
「<確かに密度を高めて硬くしたりすれば吸血鬼のような使い方ができそうだけど、想像してみてほしい、シリコンゴムを生成する能力を行使するとしたらどんな物を生成する?>」
「僕なら耐久性の高そうな物とか、実用性のある物かな」
「<そうだ、普通ならな。タケノコみたいな形状で?腕に装着?そんな発想にたどり着くか?>」
「それで、しっくりこないわけね。でもさ、答えは単純で、過程が複雑ってだけかもよ?」
同じリヴの人間でも個人差はあるが、義務教育では基本的に過去の事例を基に指導されることが殆ど。基礎にある戦い方や咄嗟に出る技は似通いがちになる。
独学や感覚派の人間が例外的に特殊な使い方をすることがある為、絶対にありえないと言い切れないが、確かに一般的とは言えないリヴの使い方だ。
アサヤは新井田が言う「強度」と「伸縮」というキーワードについて聞いてみる。
「生成したモノの強度と伸縮ってどう調整するの?こう内部的に」
「<生成型の基本はイメージとエネルギーだ。生成したいモノをイメージすることで型を形成し、そこにリヴのエネルギーを注入していく。注入するエネルギー量が多いほど硬く、最終的な形がイメージできていれば注入時間を長くすることで生成物を伸ばすことも可能>」
「よく『塗り絵』に例えられるよ。線画がイメージ、色の種類と濃度がエネルギー」
「特に個性出るよね~塗り絵って。大人になるとより緻密になるところもリヴに似てる」
「<少し異なるのは最初の線画も自分で用意する必要があることだな>」
「ありがと。そうすると吸血鬼はかなり繊細な調整ができるってことになるね」
短いサイズにエネルギー量を十分に使った硬い近接タイプをメイン武器に。
今度は一定量でエネルギーを注入し続けることで銛のように攻撃する中距離タイプ。
長く生成させる代わりに硬さを控えめに軟性を持たせ、鞭のように扱う別種の中距離タイプ。
リヴの概要は不明だが、吸血鬼が扱う生成パターンは現状この三種であり、生成型に必要なイメージとエネルギーの調整が精密に行われていることは間違いない。
ふらっと考え事をしながら車止めに跳び乗ったりし始める廿日春。
ややバランスを崩し腕を振り回して落ちずに済んだ彼女を見て、アサヤはふと芽暮が説明していた戦闘内容を思い出す。
そこに駐車しようとする車が一台。彼女らは邪魔にならないよう移動し、そのまま最後の場所に向かうことにした。
・・・
夕方、十七時半頃。暗いとは言えないが薄みがかった空色に、街灯も夕方を検知して自動的に点灯していた。
最後の場所は芽暮が襲撃にあった古宵公園。
広い敷地の外れ、住宅に近いこの小さな入口で彼女は吸血鬼に遭遇した。
綴が指さす先には芽暮が追い込まれた林があり、五人は林の方へ道なりに進んでみることに。
両脇には高い雑木林、涼しくて落ち着く散歩道にはジョギングや犬の散歩をしている人がちらほら。
「先輩はこの整備された道じゃなくて林の中を逃げたんだよね」
林への立ち入りを警告する看板を前に綴がそう言う。
闇夜で行く手を阻む木々と追跡される恐怖を想像し、隣の廿日春は悲しそうに尋ねた。
「吸血鬼を突き動かしているのは、やっぱり復讐なのかな………」
「沢山の人を襲う程の、一線を越える程の何かがあったのは間違いない」
「<復讐にしては噛み痕一つって生温いけどな。あくまで目的は牽制とか脅迫か>」
「芽暮先輩以外が学校に来なくなったのも気になる」
怒りや悲しみ、もしくは無慈悲な命令か。何が吸血鬼という存在を生み出してしまったのかは分からないが、その原因がある以上、吸血鬼が百パーセント悪いとは言えないのかもしれない。
芽暮の依頼は吸血鬼の特定。あと数歩。あと数歩情報が足りない。
アサヤは再び歩き出す。現場付近とは思えない心地よい散歩道で、不足しているその数歩を物理的に満たそうとしたくなる。
吸血鬼がテロリストの仲間であるのなら、意識のないヨイチとマヒルを目覚めさせる方法を知っている可能性がある。再戦したいという芽暮と同じく、警察に捕まる前に聞き出したいが。
特に新たな発見もないまま、散歩道の終わりへ到着した。
雑木林がなくなり開けたそこは、公園入口から中央へと続く並木道で、道の中央にはデザインとしての水路と花壇が並び、散歩道と交差している部分は水路を渡れるような小さな橋がかかっている。
近くにあった矢印案内板に目をやると、右は公園の中央へ、左は住宅地や公園の駐車場へ向かうようだ。
ここから先は今回の事件とは関係のない場所になり、時間も時間である為、解散を打診しようとアサヤは後ろの三人へ振り向く。
すぐ後ろに目が合う廿日春。
その右頬に白く鈍く尖った鈍器が差し迫っていて。
「──────っ!!!」
アサヤは咄嗟に彼女の肩を力いっぱい突き飛ばした。
二人の間をブオンと空気を割く音が鳴り、空振ったそいつはぶらりと腕を垂らし、綴に受け止められて尻もちをつく廿日春を見下ろした。
黒い上下にウィンドブレーカーのパーカーを深々とかぶり、肌を見せないが腕から生える白い五十センチ程の象牙のような鈍器が黒の上に際立っている。顔面に水色の結晶は無いものの、同じく黒いマスクで口元を隠し、目元はパーカーの影となってよく確認できない。
特徴がほぼ一致する襲撃者にアサヤは、すぐさま背後から中段蹴りを見舞う。
背後からの攻撃に防御が間に合わなかったのか、右の二の腕へ蹴りは命中。少々よろけるも追撃の回し蹴りを回避した奴は、襲撃を中止して住宅地方面へ逃走を図った。
「待て!吸血鬼!!」「よくも」「びっくりした~!私が何したってんだ!」「<ぶっ飛ばしてやる>」
四人はその黒い背中を追う為、駆け出した。
吸血鬼の速度に並木林がさわさわと不気味に揺れ、花壇の花が巻き起こる風に首をかしげる。
ドラマの撮影と思っているのか、並木道を歩く人々は何が起こっているのか理解できずにその様子を静観していて。
軽い身のこなしで早くも公園の出口に差し掛かると、赤色に変わったばかりの信号を突っ切り住宅地方面へ姿を消す吸血鬼。
「やばい逃げられる!」
赤信号で一時停止を余儀なくされる四人。
すると。
「何か追ってんだろ!?ほら行った行った!」
不穏な状況に青信号になっても進まずにいた自動車の窓から、おばちゃんがそう声をかけてきた。
ハザードを付けた対向車側の自動車も同様に大きく手招きをしており、「ありがとうございます!」と大声でお礼を述べて全力で赤信号を渡り切った彼女たちは急いで奴の姿を追う。
最後に逃げ込んだのを視認した道路は長い直線が続いていたが、道先に吸血鬼は確認できない。
行き当たった十字路。すぐに右か左に曲がったのだろう。
「アサヤと花波は右、僕と雪兎は左へ別れるでいいかい?」
「<ええよ>」「異議なし!」「何かあれば一報入れる」
他の三人は綴の指示へ即呼応し、地面を蹴る。
道を譲ってくれたおばちゃん達の為にも逃すわけにはいかない。眼鏡の奥で闘志を燃やす。
「どしたの?大丈夫?あさっち」
廿日春はスピードをやや落として横付けして声をかける。
「廿日春さん、速すぎるだろと思って」
「そりゃ学年1位ですから〜。おぶってあげよっか?」
「ありがと、気持ちだけおぶられておくよ。ほら、ついていくからアゲてけ」
ハートをとんとんと叩く彼に、ニコッと笑った彼女はスピードを上げていく。
あまりに速い速度にやっぱり手加減してもらえば良かったと思うアサヤだった。
「…………」
一方、同様に両サイドの光景が早々と場面転換していく速度で駆けていく新井田と綴。
脳は困惑と感情とでぐちゃぐちゃとなり、二人の間に会話はなかった。
突如起こった襲撃、反応することもままならず彼女が倒れてくるその背中が脳裏に新しい。
そして。人がすれ違えない程の狭い通路の途中、裏口用の膨らんだ三メートル四方の空間で。
「こっちが正解だったっぽいね。二人に連絡しておこう」
「<初めまして>」
男二人は、逃走を中断しこちらを向いて待ち構えていた奴に追いつく。
それが舐められていることを理解している新井田と綴の二人はそれでも冷静に対峙した。
薄暗い場所を好む吸血鬼。気配が薄く動きに無駄がない、敵の方が上手であることは確か。
綴は簡潔な文章を送信した後、携帯をしまったカバンを地面に置いた。
「あさっち、戦闘準備だよ」
「おーけー。スケープゴートにしては黒すぎる」
古宵公園の第二駐車場。住宅地を抜けた場所に位置するその駐車場は公園に隣接する広大な第一駐車があるかつ公園へはしばらく歩く必要がある為に人がいない。
アサヤと廿日春は通知で鳴った携帯を開くことなく、眼前の奴に構える。
大きな口を開け、闇に紛れるべくなびく濃い灰色の体毛と、残光が反射して輝く鋭利な眼。
太く立派なたてがみを生やした体高二メートルある巨狼が駐車場の中心でこちらを睨み。
二人との距離は僅か五メートル、怪物の眼は彼女らを敵対していた。
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