第3話;夜鬼 (Vampire)-④
アクセス頂きありがとうございます。
拙い文章です、ご容赦ください。
二学年のフロア。
一人目の女子生徒は語る。
「頭良いけどそういうことする人、たまにいるよね。二年生では噂になってた、吸血鬼の件で結構浮彫になったけど。でもほら、この学校は弱い人の方が少ないじゃない?最近では他所の学校を標的にしてたっぽいよ」
二人目の女子生徒も語る。
「私は全然知らなかった。誰かさんが討伐されるくらいだから、同じ目に遭った人に事情を聞こうとしたんだけど、どうやら襲われてから学校来てないみたい二人とも。というか私たちではなく?この子達にお願いしたんだ?ワコ」
眼鏡でおさげの彼女に冷たい目で詰められる芽暮は、分かりやすくあたふたしている。
「ちょちょっと落ぢ着いてクラ。おめも二年生なんだがら色々嗅ぎまわったら危ねえべ」
「ふーん、まーいいですけど。危ないと言ったら、あなたもまた狙われる可能性があるんだから────」
「ごめん、この独楽が止まるまで待づから先行ってで!」
「おい。あなたはずっと止まってないでしょうが」
芽暮にクラと呼ばれている、とても清楚で大人しそうな女子生徒・倉地は彼女の胸倉を掴む。
仲良しなんだなと四人は彼女を置いて先へ進むことにした。
放課後は部活をやっておらず、帰宅をしていない人がちらほら残っているだけのようで、倉地も一緒に帰ろうと芽暮のことを待っている様子だった。
先輩のことは早めに解放した方がいいかもな、とアサヤは他に女子生徒がいないか、歩きながら扉が開いている教室をのぞいていく。
「あんまり二年生いないね~。開と雪兎は昨日どうやって調査したの?」
「同じくここで大まかな情報もらって~、女子生徒側の情報は花波が持ってきそうだから、男子生徒側の情報を調査しにいったんだ。彼の高校まで」
「<変わらず不良だったようで、エピソードもいびった相手も、掘っただけ出てきてな>」
「無駄そうな部分を省いた結果がさっきの報告だよ。そう言えば、襲われた男子生徒も学校来てないって言ってたな」
「<不登校と区別がつかん>」
「彼の高校はどうやって?」
「<律儀にSNSのプロフィールに書いてあった>」
「インターネットって怖いよね」「<バカが釣れやすい>」「こらこら」
そんな話をしながら2-Dの教室へ向かおうとした。
その時。
「うっ!」
その教室の開いていたドアから男子生徒が唸り声と共によろよろと出てきてそのまま腹を抱えて廊下にうずくまった。
頑張って声に出さないようにしている唸り声。
「大丈夫ですか!」
明らかに異常な事態にアサヤは先行して駆けつけた。綴たちも後を追うように苦しむ彼の下へ駆けていった。
彼の痛がり方から鳩尾に入ってしまった事を察す。
一体何が。
「おいおいおい。なんだぞろぞろと」
男子生徒が出てきた教室、内から入り口へと歩いてきた女子生徒が一人。
軽く蹴っただけで呻き声をあげる男子生徒と、それに寄りそうその他四名の人間を見下し、嫌気フルスロットルで彼女は登場した。
「あたしそいつに用があるんだわ。邪魔だ、のけ」
ドア側の縦枠に寄りかかりあたしの言うことは無抵抗に受け入れろとでも言いたそうな顔をする。
綴はどくわけないだろと先輩を眼鏡越しに睨むが、女子生徒は彼の正義感を鼻で笑い一蹴した。
それに加え、制服の襟についているエンブレムで彼らが一年坊だということに気付いたようで。
彼女が目の前にいる計五名の人間が自身よりも弱者だと判断した彼女は驕っていた。
この状況、四人はおおよそ見当がついた。アサヤが代表して問う。
「この人があなたに何かしたんですか?」
「あはは。現在進行形でしてるじゃん」
「何を?」
「精神的に苦痛を与えてるでしょ、私に。まぐれで男性リヴァとして生まれて?やっと女性と横並びになれるはずなのに、どうしてそんな雑魚並みに弱いの?その辺のゴミ屑と何も変わらんじゃん。同じ空気吸ってるだけで吐気を催すんで精神的苦痛を受けてまーす」
────ピク。
「男は卑しいから殴られるのも蹴られるのも当たり前と」
「そりゃそうだよ。男は女の言うこと聞いてればいいの。自分独りで生きられないんだから」
────ピクピク。
「つーか大集合じゃん、お前らもだからな。あたしの言うこと聞いて早くのけよ」
アサヤはもう彼女へ応答するのを止めた。
────ピクピクピク。
どこかから聞こえるゾゾゾゾというオノマトペがあまりに大きかった為。
男性生徒の背中をさすっていた新井田は違う。同じく身体を支えている綴も違うだろう。
「のけっつってんだろ!希少なゴミとか所詮ゴミでしかねーだろうが!」
応じない彼らに痺れを切らした女子生徒は機嫌の悪い表情で寄りかかっていた身体を起こし、彼らの方へ歩み寄ろうとした。
「はぁ」
その場の全員の耳に聞こえた一つの溜息。
廿日春は彼女から見て左サイドの真横へスッと位置すると。
左足を女子生徒の脚裏へ大外刈のように深く忍び込ませ。
右手では女子生徒の左手首を掴み、親指を肩甲骨へとくっつけさせて腕を後ろで固め。
左手で女子生徒の顎から耳にかけての輪郭を掴み、グッと奥へ押し込んでのけ反らす。
そうして、彼女によってアンバランスな体勢が完成する。
「それ以上は許しませんよ────先輩?」
女子生徒の鼻息が戸惑う。
無理に動こうとすると倒れる…………。女子生徒は身動きがとれず、うまく話せもしない。
廿日春が彼女の身体を支えるストッパーになっている為に、手を放した瞬間に崩れ落ちる。
彼女の身体なのに彼女に支配権が無い状態。
「<花波を怒らせちゃダメだよ、アサヤ>」
新井田が敢えて声にせず教えてくれたことを察して、アサヤは黙って頷く。
「『歯止め』って技らしい」
「あの車輪固定する道具?安直じゃない?」
「ちょっと!安直じゃないよあさっち!」
「技名をその場のノリで決めるからだよ」
「<割と的を射てるネーミングだけどね>」
相手が力む前に技を決めるには虚を突く素早さが必要であるが。
アサヤはその技の滑らかさに感心する。
「そろそろ反省しましたか?」
思わずツッコんでしまった廿日春だったが、気を取り直して尋ねる。
僅かだが時間はあげた。しかし彼女の言葉に女子生徒はこう返した。
「──────全然?」
彼女は反省の色を示さずに廿日春に歯止めされて表情がひきつったままニヤリと笑った。
さいですか、とマナミは大外刈寸前の左足をどかし、女子生徒の顎を抑えていた左腕を前方へ絶妙な力加減でぐっと押した。
けんけんと後ろへ下がる女子生徒。マナミの力加減により重心はやや背中側、体勢を戻せず片足で踏みとどまってはいるが………。
結局、教室の中でドサっと女子生徒は情けなく尻餅をついた。その屈辱に女子生徒は襲われた。
そんな彼女に廿日春は追い打ちをかけるように見下ろして呟いた。
「先輩パンツ見えてますよ」
「っ!!」
慌ててスカートを押さえる。紳士な彼らは見えそうになった瞬間にすぐよそ見をしたのだが。
下に見ていた男性に見られたと勘違いをしたことで辱めも加わり、女子生徒の怒りは有頂天に達していた。
マナミは冷たく続けた。
「先輩は『男が嫌いな私』に酔ってるだけなんですよ。『男』の部分を『自分の惨めさ』に変えた方がいいんじゃないですか?」
自分の惨めさが嫌いな私。
「男ウケいいですよ」
「このくそ尼がぁぁぁ!」
「─────はいストップストップ!」「あなた達勇敢すぎ」
女子生徒は片足を立てて殴りかかろうとしたが、芽暮と倉地の声と視界に入った二人の姿にハッとなった。
どうやらその二人には苦い思い出があるのかもしれない。
不利な状況かつ味方が一人もいない、あまりに不愉快極まりない空間に、カバンを握りしめた女子生徒はズカズカと教室を出ていき帰路につく。
廿日春の横を通りざま、「覚えてろよ」と吐き捨てて。
彼女の小さな背中をその場の全員が数秒見送り、お尻をついていた男子生徒が立ち上がったことで視線はそちらへ集まった。
「皆さん巻き込んでしまって申し訳ないです。ちょっと彼女の道の邪魔をしてしまったみたいで………」
落ち着いた様子で彼はやや深めに頭を下げる。
センターで分けた肩まである黒い長髪が揺れ、頭を上げると温厚そうな顔といくつかのホクロがある。
二学年に男子生徒は二人いるはずだが、その内の一人だろう。
芽暮が心配そうに声をかける。
「大丈夫だった?会藤。まったぐ野蛮な奴だ」
「彼女が例の不良グループのリーダーよ。仲間が襲われてかりかりしているのかもね。名前は確か………」
「佐上さんですよ、僕と同じ2-Dです。あれ、君たちもしかして一年生の男性リヴァ?うわー初めまして会藤です。会藤道時です」
「初めましてアサヤです」「綴でーす!」「廿日春です!」「<こんにちは!新井田です>」
「助けてくれてありがとうございます。特に廿日春さん、強くてびっくりしたよ。そういえば君たちこんなところで何を?」
「おらの手伝いで吸血鬼探してんだ」
惜しみなく芽暮が答えたので廿日春以外の一年組が彼女を見やった。
大事にしたくない、という話ではなかったのか。
その視線に気付いた為、すぐに回答を用意した芽暮。
「あぁ会藤はおめ達より先さ事情話してっから大丈夫。二年生の男性リヴァどして名前が知られてるし忠告の意味も込めで、ね。それに、絶対吸血鬼ではねえがら。なっ?」
「後輩たちがなんで?って顔してるね」
「あ~理由は単純で、僕はリヴが生成型じゃないんだよ。それに昨夜は塾に行っててアリバイがしっかりある」
「そ。そしてクラはおら救助してくれた一人で親友だ。当然アリバイもある」
「妙な腐れ縁ね」
芽暮が倉地へ一方的に肩を組み、お互いに微笑みながらそう答える。
話を聞く限り、ここにいる人間と、昨夜彼女を救助した残り数名が事情を知っているとのこと。
確かに彼女が襲われた噂が耳に入ってこなかったことを考えると、芽暮の意思通り、この仲間内で事情を閉ざすことができているのだろう。
人がいないと言っても廊下でべらべらと会話するわけにもいかないので。
それから少しだけ会話後、会藤は用事がある為、そして倉地も芽暮へ帰ろうと促した為、あとは一年生組で行動することとなった。
彼女は少し名残惜しそうに親友に引っ張られていく。
「ばいば~い。また明日分がったごと聞がせてね~」
そういって三人は手を振って階段を下りていった。
一学年とは異なる雰囲気、おそらくこれが先輩感なのだろう、と残った面影を四人は感じ。
引き続き、二学年フロアの廊下で彼女らは残りの聞き込みを進めた。
結局それ以上の成果は出なかったが、解散にはまだ早いという話となり。
四人はその足で、襲撃のあった現場へ向かうことにした。
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