信じられてる
カンナをおぶったヤイチが次々と見張りのAIに突っ込んでいく。
見張りのAIはなす術なく飛ばされていき、壁や天井に打ち付けられている。
「資料でしか見たことなかったけど、これをAIって呼ぶにはAIに失礼な気がするんだけど」
AIというのはプログラムの名称であって、ロボットという意味ではない。詳しくない人に例え話でロボットを出す時はあるけれど。
シークレットベースで見たことのある資料の中に"AIを搭載した見張り"というものがあった。
現実味のなさすぎる内容に当時は上から下へと流し読みするしかしなかったけど、まさかこの世界において支配権を得ているとは思いもしなかった。
「呼び方なんてなんでもいいわよ。ポチでもタロウでも」
「どうして犬の名前限定なのよ」
ため息混じりにあつみんが会話に参加してくる。
「うちらがその系統だからに決まってるじゃない」
「私はケルベロスを犬だとは思いたくない」
「次に創る世界ではそう決めるといいわ」
次に創る世界……あつみんは冗談で言ったのか、本気で言ったのか、私にはわからなかった。
「これって向かってる方角は合ってるの?」
私たちは今、ヤイチの突進に倣って着いていってるだけ。
本当に大丈夫なのかと不安が募り始めてきたため、あつみんに尋ねてみることに。
「合ってても合ってなくても、放っておけると思う?」
「これっぽっちも思わないけど、せめて合ってるかどうかだけ教えてちょうだいよ」
何故かあつみんは一呼吸置いてから口を開いた。
「残念ながら真逆よ」
「どうしてそれを早う言わん!!!」
あつみんはヤイチを指差しながら声を大にして答えた。
「アレをどうしろと言うんだ!うちが引き止めてみせろとでも言うんか!?暴走列車を止めれるんは燃料切れしかないんやぞ!!!」
「引き止めろなんて言わんわ!せめてもの報告をしろ言うとんねん!進んでるんが逆方向だとわかれば対策を練られたものの、距離離れてもうてるやんか!」
沸点が上がってしまい、変な訛りが出てしまった。
「だからその対策ってやつを考えてたのよ!」
「どうして一人で考えようとするんだよ!」
「……そんなの知らん!」
珍しく怒号をあげるなと思っていると、次にあつみんはボソボソと独り言を唱え始める。
「聞こえんぞ」
「独り言よ」
あつみんはしばらく話してくれなさそうだ。
「アルタイル?聞こえる?寝てるの?」
アルタイルに声をかけるも、未だ返答はない。
「カンナ!!カンナ!!!」
暴走列車の車掌を呼ぶ声も虚しく、環境音にかき消され届くことはなかった。
仕方なく思い、自分の中で次の行動を考えようと試みるも、この世界についてわからないことが多すぎる。
あの時、もう少し真面目に未来の世界についての資料に目を通していたらと思う。
まぁでも、ここは未来の世界だ。過去のデータに囚われることなく、未来を予測することが大事なんだと、私の直感が言っている。
「ねぇ、私の声伝わってる?」
背後をついてきている生徒たちに声をかける。
「声を発せないにしても、何か反応することもできない?首を振るとか、ハンドサインで意思を伝えるとか」
生徒たちは走りながら一斉に阿波踊りを踊り始める。
「それはもういいって……あれ、今のって私の声に反応したってことでいいのよね?」
「あぁ、間違いない」
「アルタイル!!?」
驚きのあまり一瞬、立ち止まってしまった。
「わらわの立場を侮らないでほしい」
「アルタイル、訊きたいことが山ほど──」
「わらわはシロコを信じておる。必要な時に備えて、もう一眠りしてくる」
「アルタイル!アルタイル!?」
起きたと思ったのに、アルタイルはすぐに裏へ消えていってしまった。
でも、アルタイルの言葉ではっきりと言ってくれた。私のことを信じてるって。
アルタイルが神であろうがなかろうが、私は仲良くしたいと思っている。その中で信頼関係が芽生えたということに対して、私はとても嬉しく思う。
信じてくれてるのなら、答えてあげるのが筋ってもんよね。
「アンタたち!ここからは"私たち"のことを信仰してもらうわよ!!!」
その場に急に立ち止まり、振り返って生徒たちを従えるように仁王立ちする。
「ちょ、何やってんのよ!」
走り続けるあつみんが私に向かって叫んでくる。
「真面目なワンちゃんは黙って一芸でも覚えてなさい。私は私の仕事を全うするから!」
暴走列車を止める方法は何も燃料切れだけじゃない。
AIに人間とAIとを区別する機能があるのなら、もちろん私たちにも備わってるはず。
味方と敵とを区別する機能がね。
これは宇宙で最も簡単なトロッコ問題。目の前に現れた味方を轢くか轢かないか。万人が轢かないを選択するはずだ。
「私の信号を受け取って動いてちょうだい!」
私たちがどれだけ走っても追い越すことができない速度で進むヤイチに対して、何もせず前方に出ることは不可能だ。
そのためには少しでも気を逸らすことが必要である。
ヤイチは今、見張りのAIをやっつけるということしか考えられてない。
だとしたら正面からではなく、横から見張りのAIをぶつけることができれば暴走列車のスピードは緩やかになり、私たちが前方に立つことができる。
「せーのっ!」
私の掛け声と同時に、生徒たちはヤイチに向かってAIを投げつける。
「うぉっ!?なんだ!!?」
ヤイチは驚きの声をあげつつも、冷静に対処している。
「今よ!命を賭して侵攻するのよ!」
無数の生徒たちが転がりながら配置につく。
「あ、あぶ、危ない危ない危ない危ない!!!」
ヤイチと見張りのAIとの間に線を引くように、生徒たちが壁から壁へと一直線に繋がっている。
「っとっと、ふぅーッ。危なかったーーー!」
とてつもないスピードだったにも関わらず、ヤイチはピタッと瞬時に停止した。
「んで、どういう状況?」
ヤイチが状況を整理しようとしていると、背後からやってきたあつみんに体の方向を修正される。
「カンナ、発進」
あつみんがカンナのお尻を叩く。
「全速前進!!!ハッシャーク!!!」
やはりあのスピードと突進の威力は二人の掛け合わせだったようだ。
あっという間にヤイチたちの姿は暗闇へと消えていった。
「あ、あのぉ、お手柔らかに……」
しーんとした空間に残されたのは、私たちと見張りのAIだけだ。
見張りのAIは迷わず私たちを攻撃してくる。その間、僅かコンマ二秒。
「ですよ、ねぇぇぇぇえええええ!!!!」
両手の長い爪を振るいながら迫ってくるAIから、私たちは逃げることしかできない。
「どうして先に行かせちゃったのよ!!」
あつみんに強く問う。
「先にも見張りのAIがいるからよ!挟み撃ちされる方が都合悪いわ」
わかってるけど、わかってはいるけど……助けてよ、アルタイルぅぅぅううう!!!




