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天使の仕事

 まさか自分の口から出てきた言葉に驚かされる日が来るなんて思ってなかった。

 とても不思議な感覚。

 まるで自分が自分でないみたい。

 初めてアルタイルが表に出てきた時もこんな感覚だったっけな。


「……どういうことだ?」


 「そんなこと……」と、嘲笑ってくるのかと思っていたが、アレガはより一層真剣な表情を浮かべている。


「神の座を降りてもらいたい。そう言ったんじゃが、カチンコチンのその頭では理解できんかったんか?」


 煽りを交えつつアルタイルが答える。


「わらわが易々と神をやめると、本気で思ってるのか?」

「思っておらんが?」

「……話にならん」


 アレガはベガに抱き抱えられたまま、ため息をつきながら視線を落とす。


「アレガ自身が神の座を降りない場合の処置は考えてある」

「……聞かせてもらおうか」


 アルタイルは無言で視線を地面へと向ける。その先にはシロコさんが立っている。


「あの女がどうかしたのか?」

「おっと?記憶にないのか?」

「いちいち覚えてられるほど暇じゃないんでな」

「そうかいそうかい。ちなみに彼女は元堕天使」

「元……?」

「少し前に別の存在に継承したところじゃ」

「それとこれとどう関係があるんだ?」

「神の座を自ら降りればアレガとしての自我は残る。もちろん、神としての力は失ってしまう。わらわたちが無理矢理神の座を剥奪させれば、アレガ自体が消滅する。そうなれば困るのはアレガじゃろう?」


 アルタイルはあくまでアレガという存在は残しつつ、神としての力を失わせることだけを目的として提案している。

 私たちは共存することを最善と考えている。アレガを失うことは望んでいない。

 特にベガは、アレガが消滅しそうになったら必死に止めてくるだろう。

 無駄なやり取りは減らしたい。アルタイルは何としてでも自ら神の座を降りてもらうことを望んでいる。


「わらわは絶対に屈することなどせん。神の座を剥奪させられるものならさせてみて欲しいものだ」

「本当に剥奪できた時、泣き言は禁止だぞ?」

「わらわが泣くとでも思うか?」

「昔はたくさん泣いておったろ」

「神違いじゃないか?」


 神違いという聞き馴染みのなさすぎるワード。

 改めて私がいるこの状況のおかしさを痛感させられる。


「アレガは泣き虫さんだったよね」

「ほれ、二対一じゃ。民主主義ならわらわたちが正義じゃ」

「そんなのどっちでもいいよ。で、神の座を奪うんだろ?さっさとしてくれよ」

「アレガ、本当に消えちゃうの?」

「真偽を確かめるためにも、やってくれって言ってんだ。消えなかったら消えなかったで、こいつは嘘神として、この先永遠と語り継いでやる」

「ねぇアルタイル、本当に試すの?やめない?」


 ベガが必死に訴えかけてくる。まるで子どもが母親におもちゃを買って欲しいとねだってくるみたいに。


「あ、わかったぞ。わらわを消滅させることなく、力だけを消失させたいんだな?」


 アルタイルは何も答えず、首すら振らない。


「図星みたいだな」


 神は受肉している体に、身体的ダメージを与えることは許されていないらしく、アルタイルはその掟を守り続けてきた。

 しかし、この時だけは珍しく、アルタイルは唇に歯を押し当てている。

 アルタイル自身に痛みを感じる感覚はなく、ダメージは直接私に蓄積される。

 もし、命に関わるほどのダメージを負うことになったら、私は死んでしまう。

 そうなってしまう前にアルタイルと表裏入れ替わればいいだけのことだが、タイミングを一歩間違えれば大惨事になってしまう。


「わらわはこのまま眠ることなく、オチヤとも入れ替わることなく待ち続けよう。我慢勝負だ。どうだ?お前たちに勝ち目はなくなったぞ?」


 何もこれは勝負ではない。

 今でも勝負だと思っているのはアレガだけだ。

 しかし、このまま我慢比べをしている時間はない。刻一刻とソウルターミナルへ移送される時間が迫ってきている。

 額に冷や汗が流れると、視界の端に何かが映り込んでくる。


「ん〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 しかめっ面のみりあんがプカプカと浮いてきていた。


「ケンカはだめーーーっ!!!」


 みりあんはアレガに顔を近づける。


「……あれ、みりあんじゃん」


 この声は……ヤイチ……?


「って、え?俺なんで浮いて……え?ト、トウカ?なんで……ってぅぁぁああああああ!!!??」


 一瞬にしてアレガとヤイチが入れ替わり、ヤイチが真っ直ぐ落下していく。


「た、助けて!アルタイルッ!!!」


 ベガが支えていたにも関わらず、ヤイチは勢いよく落ち続ける。


「ちょ、まっ、えっ?なんじゃ?天使はそんなこともできるんか!!?」


 急いでベガの元へ向かう。


「ふっふっふっ、甘いぞ!新天使!!!」


 背後から聞き覚えのない声が聞こえてきたが、今はそれどころではない。

 一刻も早くヤイチたちを助けないと、何度も身体的ダメージが蓄積されていけば元通りにならなくなってしまう。


「戻れぃっ!!!」


 再び聞いたことのない声が聞こえてくると、ヤイチの落下はビタっと止まった。


「……何がどうなってるんだ?」


 ヤイチだと思っていたのだが、再び一瞬のうちにアレガに戻っていた。

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