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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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温泉旅館と騒ぎ声


旅館に着いたのは茜色の空が広がる、夕方に近づいた頃だった。

藪笠たち一行は旅館の駐車場で車を止め、重い荷物を各自で持ち旅館の玄関前に足を運ぶ。

すると、旅館の玄関前で一人女性が立っていた。


「ようこそ、おこしてくださいました。泡宮旅館の女将をしています、愛弓千歳です」


髪を束ねた、浴衣姿の女性。

名前は愛弓千歳。

化粧は薄目から、元々の美人な顔だちをしているのだろう。

歳は二十代後半と見える。

お世話になります、と藍が女将と話しを始める。

藪笠はそんな二人をただ茫然と眺めていた。

と、そこで不意に背後からくる二つの視線に気づく。藪笠は眉を潜めながら後ろに振り返る。


「なんで俺を見る」

「別に……」

「な、何にも理由はないよ…本当に」


バッ、と顔を逸らしたのは鍵谷と島秋。

共にこっちに目を合わそうとしない。

訳が分からず、怪訝な表情を見せる藪笠。と、側にいた車内の一件で不機嫌なリーナが呆れたように口を挟んできた。


「貴様が美人に鼻の下を伸ばしていないかと見ているのだろう」

は? と、首を傾げる藪笠。

乙女心がわかっていない少年の仕草にリーナは頭痛を感じながら溜め息を吐いた。

だが、そんな中、藍と話していた女将がゆっくりとした足取りで藪笠に近づき何気ない動きで藪笠の頬に手を当てる。


「っえ!?」

「あら、ホント。男の子にしては可愛らしい顔をしているんですね?」


そう言って、口元を緩める女将。

藍と話している中で何か余計なことを吹きこまれたらしい。慌てて後退する藪笠は頬を赤らめ動揺を隠せないでいた。

そして、その直後。

再び背後からヒヤリとした寒気を襲い、素早く後ろに振り返る。


「「「「………………………………………………」」」」


鍵谷と島秋。それに浜崎にリーナ―もが冷たい目線で藪笠を見据えていた。


「「「………………………」」」

「………全員で睨むなよ」


藪笠は口元を引きつりながら、この重い沈黙をどうしたことかと悩む。

後、影で大の大人たち二人が密かに笑っていたのにも苛立ちを覚えるのだった。



女将である愛弓に連れられるまま旅館の廊下を歩いていく。

彼女が紹介してくれる部屋は二つの寝室と居間がある和室。各部屋には暖房のヒーターがついており、居間にはコタツつきの大テーブルとテレビ、座布団が人数分と用意されている。

鍵谷は荷物を部屋の隅に置き、寒かったのかすぐさまコタツに足を入れた。


「はぁー、生き返るー」

「真木、なんか年寄くさいわよ」

「まぁまぁ、玲奈ちゃんもそうケンカしないで」

「玲奈様、お荷物をこちらに」


少女四人はてきぱきと荷物を部屋隅に奥とコタツに入っていく。

どうやら寒さを感じていたのは鍵谷だけではなかったようだ。

藍は愛弓と話を終えたらしく、同じように荷物を下ろすとそのまま鍵谷の隣に入り込む。


そこで藪笠は尋ねた。


「な、なぁ……俺の入るとこは?」


大テーブルといってもそう大きなものではない。

長方形の上、端を浜崎と島秋が取っており、長いところには鍵谷と藍、それにリーナが陣取っていた。

普通に考えれば、リーナの隣に藪笠がくるのだが、


「………貴様はコタツ無しでいいだろ」

「おい」

「藪笠くん、こっちは窮屈だけど、隣入る?」

「ちょっ、藍さん!?」


藍の冗談に聞こえない言葉に動揺する鍵谷。

リーナは頬を赤くさせるも断固として譲らないようだ。

そして、そんな中で島秋だけは配置を間違えたと一人悶えている。


「はぁー、もういい。先に風呂言ってくる」


藪笠は溜め息を吐くと荷物からバスタオルとタオルを手に部屋を出て行った。

これ以上続けていても意味がないと思ったのだろう。

彼がいなくなった居間で沈黙が落ちる。特に三人が後悔しているのか落ち込んだ表情だった。

浜崎と藍は苦笑いを浮かべ、


「………全く、アンタらは意地っ張りなんだから」

「まぁ、仕方がないわね」





「ふぅー……」


男と女。

二つの立てかけで分かれた更衣場。

もちろん、男である藪笠は男の更衣場に入り、服を棚に入れられた籠に放り込む。

自身の住む私室の風呂は小さくもなく、かといえ大きくもない。

そのため、こういったゆっくりとくつろげる場所に来れたことは本当によかったと思っている。


(そういえば、ここって他に客とか来てるのか? あんま見なかったけど)


風呂の扉を開き、中に入りながらそんなことを考える。

だが、目の前に広がる湯気に囲まれた浴場を見て、後でいいかと思ってしまった。


「先に体洗っとくか」


藪笠はそう言って洗面台へ足を向けようとした。

だが、その時だ。


バサッ、と。

湯船の水が跳ね飛ぶ音が聞こえた。


「ん?」


藪笠は音のする方に顔を向ける。

湯船の奥まで見えなかった浴槽。目を凝らすとそこに一つの影がある。

どうやらその影もこちらに気づいたらしく、影は湯船から立ち上がり藪笠を見つめた。

そして、湯気がゆっくりと晴れる。


「……!?」


そこにいたのは白い肌と白の長髪。

見た目は藪笠とそう変わらない、ブルーの瞳をした一人の少女だった。

そして、次の瞬間。



「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



ガゴン!! と藪笠の顔面に木製の桶が激突する。

さらに、旅館全体を揺るがすほどの悲鳴が響きわたることとなった。



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