わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第九十八章
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金星において、第一首相というポストは、言ってみいれば、ビューナスの秘書であり、使い走りであった。
実際にビューナスの側近として、長い間権勢を誇ったのは、他ならぬ、あの「とんちんかん」の、アレクシスとレイミの兄妹だったのだ。
もちろん、二人とも元々は人間であり、肉体もあった。
「光の人間」の技術を最初に開発したのは、そのレイミ博士だったのだ。
この二人は、まあ言ってみれば、不変の特等席に座っていた。
人間と「光の人間」の双方を支配していたのだ。
それは、二人が、かなり異常な、特別なカリスマだったから。
だから、ここでは、計算から外して、その次が、情報長官というポストだった。
すべての大臣職の頂点は、なぜかここにあった。
バンバは、明らかにここに到達する勢いで大出世してきていたのだ。
その地位をひっくり返したのは、ある部下の大失敗だった。
実際は、それには仕組まれた筋書きがあり、地方の下級職員からのし上がってきた、あらゆる意味で、まったくのノンキャリだったバンバに反発した、エリート組の仕業だったと言う噂がある。
その頂点には、ブリアニデスがいた。
バンバはこのことについては、これまでじっと沈黙したままだったけれども。
ビューナスが滅亡したときに、アレクシスとレイミは、主人と共に殉死するようにこの世から去っていった。
「光の人間」の寿命と言うものは、実は分かっていない。ほとんど不死に近いとは言われていたが、確証は得られていなかった。だから、二人が死んだのかどうかは解らない。
問題はしかし、この二人の後を継ぐ適当な人材がいなかったことだ。
「光の人間」を真っ向から統率できるものは、もういなかった。
形式的には、ブリアニデスに従うことが求められてはいるが、それを保障する力を、彼は持ち合わせてはいなかったのだ。
あえていえば、そんな事が可能なのは、「女王様」だけだった。
つまり「光の人間」は、もしかしたら、火星側に付く可能性だって、十分にあった。
そうして、バンバである。
彼は、自分を排斥しようとした張本人は、ブリアニデスに違いないと判断していた。
ブリアニデスにとっては、バンバは危険な存在だった。
側近にはしたくない男だった。
バンバは、軽率に行動するような人間ではないが、いつの日にか、チャンスが来るだろうと、実際考えてもいたのだ。
だから、地球のホテルは、よいねらい目だった。
ここには、体制側に不満のある人物、あるいは体制側から睨まれている人物が多く飛ばされていた。
バンバは、そうした人物を公式にも非公式にも、陰から静かに支え、何かと支援してきていた。
なので、今回自分が左遷されるにあたって、ホテルの職員から大歓迎を受けたのは、当然と言えば、当然だったのだ。
丁度良い機会が来た。
金星からの、一定の独立を勝ち取るチャンスだったのだ。
「ママの機能が戻ったら、先に観光団を受け入れてくれよ。悪い言葉で言えば、人質です。重要な要人、技術者、天才、VIPばかりだ。大いに役に立つ。」
「総支配人たちは?」
「総支配人と、支配人は、悪いが予定どおり監禁してくれ。外部との連絡はさせるな。」
「ええ、もう拘束はしました。」
「『青い絆』が、どっちに付くかだが、どうやらあの行動隊長は、ブリアニデスの弟だったらしい。まずこっちには付かないだろう。しかし、確認はする。例の部屋の中に行動隊長以外は全員案内して拘束。ギャレラには会って話をする。しかし、その内容次第ですぐ拘束する。観光団も、「青い絆」も両方入ったら、自主的にホテルは全閉鎖しなさい。そう。パレスはどうなってる?」
「いやあ、ほら例の、第九惑星にいたマヤコさんという人、本人、事情は何も知らないですが、挨拶もしないで踏み込んできた「青い絆」の隊員3人を、あっという間に、のしてしまったそうです。おかげで難なく、確保したとのこと。」
「すごいな。十分お礼をしなくては。でも、しばらくは安全の為にも、パレスにいてもらおう。」
「そうですね。攻撃して来るでしょうか?」
「どうかな。自分の弟や、金星最高の頭脳を集めているんだ。しかし、ブリアニデスはわからない。あいつはあまり正常じゃない。あの性格には、大きな偏りがある。だからとんでもない大暴投だってありうるさ。ダレルさんと連絡が取れるように、段取りしておいてくれ。『地球旅館の女将』とは、日ごろからいろいろと連携してきたんだから。」
「了解。」
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ギャレラは、ずいぶん待たされた。しかし、「ママ」が機能不全に陥ったことは確かで、そうなれば、こうなることに疑問の余地はない。何とかしろと騒いでみても、どうにもならない事はよくわかっている。
しかし、先ほど本部から連絡があった。「ママ」が回復しそうだと。
彼は「ホテル」側に問い合わせを入れようとしていた。
そこに、良いタイミングで、連絡が来た。
「お待たせしました。「ママ」が動き始めたようです。入口が開くと思います。お入りください。」
ギャレラは副隊長を見ながらため息をついた。
「まあ、よかったよ。」
行動隊の装甲車3両が、駐車場に降りて行った。
「隊長、まったく休んでないでしょう。少しホテルで休ませてもらった方が良いですよ。」
「ああ、ありがとう。しかし、総統閣下は気が短い。やることは、早くやっとかないとな。それから寝よう。」
「はあ・・・。」
広大な駐車場で、「青い絆」の隊員たちは素早く車両から降り、ギャレラを先頭にして二列になってエレベーターに向かった。二台に分乗した彼らは、勝手はよくわかっているから、さっさと総支配人室に向かった。しかし、部屋の前でにこやかに出迎えたのは、バンバだった。
「いらっしゃいませ。ギャレラ様は、総支配人室にどうぞ。他の方は武器をお持ちですな。総支配人室は武器持ち込み禁止なのはご存知でしょう。」
「しかし、今日は緊急だ。全員で入る。」
「いいえ、ここは「青い絆」のアジトではありませんぞ。」
「いや、本日から、ここは我々が直接管理する。問答無用である。」
「ほう、まあ、でもあなた以外の方は、こちらですから。」
周囲の部屋から、警備隊員30名ほどが現れて、兵士たちを取り囲んだ。
全員が強力な光線銃を握っている。
ギャレラの頭は、バンバの持つ最新式の分子破壊銃が狙っている。
この至近距離から撃たれたら、ギャレラの頭はすぐに蒸発だ。
「まあ、ここは、われわれの本拠でしてな。さあ、どうぞ。ああ、武器は渡してくださいよ。」
バンバは、ギャレラを部屋の中に連れて行った。
残りの兵士たちは、予定とは違って、銃をすべて取り上げられたうえ、どこかに連行された。
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「さて、というわけで、あなた方のお考えとは違って、すでにあなた方は、我々の捕虜な訳です。しかも直前に大型宇宙観光バスを多数受け入れしました。聞きしに勝るものすごい人たちが乗っていた訳です。で、「ママ」の復活にもかかわらず、我々は再び、ホテルを完全閉鎖いたしました。きわめて堅固な、要塞化したわけですな。」
バンバが丁寧に言った。
「どうしたいんだい、いったい?」
ギャレラが、慌てる様子はなく尋ねた。
「まあ、それはこれからの交渉次第ですなあ。お互いに、手の内はあまり出したくないでしょう?」
「君たちに何があるんだ。最終的には、ここを破壊するのは簡単だ。」
「お兄様ならやりかねないと、思いますか?あなたの命なんか、物の数にも入らないと?」
「まあ、そうだね。金星の未来と引き替えならば、実際そうだよ。」
「ほう。そうでしょうか?まあ、でもね、あなたにはよく考える余地はあります。テロリストなんか廃業して、正式に当ホテルの警備担当チーフになりませんか? きちんと収入がある。けっして少ない額ではない。役員の席もすぐ狙えるようにしましょう。ここは、金星からも、火星からも一定の距離を置くことになります。それとも、このままブリアニデス様の側近が狙いですか? しかし、それだとあなたのお命が、この先、危ないですぞ。ブリアニデスは、用済みの人間はすぐ捨てるから。おそらく兄弟でもね。」
「断る。それにここは、すでにブリアニデスの所有なんだ。資金はそこから出てる。それは解っているのかい?」
「いえいえ、いいですか、あなたは誤解している。いや、知らされていないのかな。この土地は、本来女王様個人の所有地ですぞ。地球全てがね。建物も、そうですよ。金星が持っていたのは、限定的な使用権だけ。しかし、ここは今日を持って独立します。もっとも、女王様の関係するある会社の系列には入りますがね。その会社が、ここを大金で買い取った。ブリアニデスさんは、ちょっとそうした仕組みには弱かったようですな。隙があったのです。それによって、金星の使用権は、ただちに消滅します。ただし一般従業員の雇用は引継ぎします。ここの資金は潤沢です。今よりも、はるかにね。すでに多額の資産が準備された。私はここの社長。ちなみに「温泉ホテル『地球』も、同じ会社に入ります。」
「なんだって? いったい総支配人はどうしたのかい?」
「あの方は、解職ですな。当然。支配人もね。でもすぐに出て行けと言う訳にもゆきませんから、しばらくはここで過ごしていただきますが。環境は悪くない。まあ、一種の革命があったのですよ。」
「納得できない。連絡をさせてほしい。」
「しばらく禁止します。話がつくまでは。」
「監禁だ。」
「そちらは武器を持って不法に踏み込んだ。不法侵入ですな。しかも脅迫。」
「ありえない。」
「まあ、残念でしょうが、仕方がないのです。お部屋を用意いたします。外出は禁止。では、どうぞ。ああ、考え直したら教えてください。」
部屋の中で待っていた警備隊員4人が、ギャレラを連れ出した。
1人は、中に残った。
「いいですかな、連中の中には、やっかいな超能力者がいる。どこにでも自由に移動できる人間。ただし多数は運べないらしい。したがって、狙って来るとすれば、ギャレラだけ。24時間監視。現れたら、すぐ確保してください。そうして、体にこの端末を付けてください。なんでも、エネルギーを体外に放出させて移動ができなくするんだとか。火星のダレルさんの発明品だそうだ。お近づきの印とか。」
「はあん。火星が味方してくれてるわけですか。」
「まあ、敵の敵は味方ですよ。」
「確かに・・・」
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「いやいやあ、マヤコ様は達人ですな。本当に感謝いたします。あの怪物を追い払ってお客様を救出してくださった上に、テロリストまで、やっつけてくださるとは、もう感謝のしようがないほどです。」
施設長が、深々と頭を下げていた。
テーブルの上には、高級そうなお茶と、何とも美しいケーキが乗っかっている。
「いやあ、なんだか、よくわからないけど、まあ役に立ったんだったら、良かったよ。」
「いや、あなたがたの身の上に関するご事情は、実は聞いております。私としましても、非常に慙愧に堪えないと申しますか、表現にならないほど、ご同情申し上げます。このうえは、全身全霊を持ちまして、対応させていただきます。」
「ああ、まあ、そこは頼むよ。特に、あの子は、ウナはかわいそうなんだから。あたしは、少々どうなってもいいけれど、あの子は、幸せにしてやりたいんだから。なんとかいい方向を見つけてやってくれよ。」
「は、ホテルの管理者ともども、頑張らせていただきます。」
「ああ、じゃあ、いいかなあ。」
「あ、いや、お疲れのところ、お呼びたてして、申し訳ございませんです。」
「いいよいいよ、あのこれ、ウナに持っていってやっていいかなあ?」
「ああ、どうぞどうぞ。ああ、二つ用意、いやもっとあるかい?」
「ええ、あの、じゃあ、お部屋に届けますから、とりあえずこれは、どうぞ。このままで、失礼ですが、お皿まま、どうぞ。」
副チーフが、やけに丁寧に言った。
「ああ、じゃあ、持って帰るね。それじゃあ。あ、そうそう。」
「はい?」
「ほら、金星に帰って来るなって言われたって、あれ、どうなったの?」
「ああ、それですか・・・」
施設長が言い淀んだ。
「まあ実は皆様にお話するタイミングに、困っておりましてなあ。実はあれからも、いろいろと金星では起こっているらしいのですが、「ママ」コンピューターが壊れかけていましたが、どうやら復活しそうだとは聞いたのですが、詳しい事はここには情報が届いておりませんで・・・。」
「はあ・・・でもさ、乗りかけた船なんだからさ。教えてほしいな、新しい情報をさ。」
「ああ、わかりました、では、今夜はまだ公表は出来ないかもしれないが、また副チーフをお部屋にやりますから。」
「おー。よろしく。じゃあね。」
マヤコは施設長室から、ケーキをうれしそうに持って出て行った。
「いやあ、変わった人物と言うか。スキが無いと言うか・・。」
「そう。ただ者じゃあないですよ。あの人。政府隠密とか?」
「隠密?ははは、まあそれはないかなあ。」
施設長室の窓からは、随分と激しくなった雨が見えた。




