わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第七十一章
王宮に戻ったビュリア(=女王)は、珍しく考え込んでいた。
「たしかに、お薬の情報はリリカさんの精神が持って帰ってきていた。自分ではわからないままね。まあ、さすがわたくしと言うか。ついでに未来の情報もたっぷりと。もっと早くもらいに行っとけばよかったかな。ダレルさんのお薬の作り方では、これ以上は進まないこともわかった。ふんふん。仕方がないからこっちで作ってあげよう。それでけりがついてしまうわ。未来の私はなぜだか、ダレル、もしくはかリリカさんに相当用心しているみたいね。それか、二人の補佐役か・・・。まあ、あの子は自分が責められもせず、嫌な事を、ことさら詮索もされずに、しかもわたくしに回収されなかったことで、多少戸惑いはしていたが、リリカさんの中から余計な人格は消去して旅立ってくれた。でも、あれは誰?」
ビュリア(=女王へレナ)は、アーニーを呼び出した。
「ねえ、アーニーさん。」
『はいはい、なんですかヘレナ?』
「あのね、あなたはわたくしが命じたことを忠実に守って行動した。そうよね。」
『もちろんですよ。もう一人のヘレナには、ちょっと気の毒でしたけれども。』
「うん。それは解ってるわ。でもね、アブラシオに珍しいお客様が乗ってるかしら?」
『あれあれ、知らなかったですか? それはおかしいな。』
「まあね、アブラシオは、今回はあの二人に任せたつもりだし、わたくしは当分引退するつもりだから、よけいな介入もしないつもりでしたからねえ。でも、さっきちょっと用事で、そっちのリリカさんに接触したんだけれども、あれ、誰?」
『ジャヌアンさんですよ。いま大人気の。』
「踊り子ジャヌアン?」
『そうそう。』
「ふうん。そうなのか。ねえ、アーニーさん。」
『はいはい。』
「そのジャヌアンさん、しっかり見張りなさい。わたくしは、口を出さないと決めたから、もう出さないけれどもね。わたくしがいただいた情報からすると、あの子、ちょっと普通じゃないわ。」
『というと?』
「未来の国からやってきた、危ない子よ。」
『あの・・・ダレルさんは、彼女を雇う約束をしてましたよ。』
「ええ?もう手を付けたの?」
『いや、なんだかあなたに勧められたとか、おしゃってましたけど。そうじゃなかったんですか?』
「はああ・・・やられちゃったかなあ。ふん。何をしたいんだろう。」
『調べたらいいじゃないですか。』
「それがね、やめといた方が良いと忠告されててね。」
『誰からですか?』
「わたくしから。」
『はあ?・・・もしかして、あなたもヘレナの分身ですか?』
「あら、そのつもりはないけれど、可能性はあるわね。確かに十分あるわ。だってあの子だって、自分が分身だって長い事知らなかったんだもの。あなた他のヘレナから、命令されていないの?」
『やめてくださいよ。アーニーは決められたとおりに行動しますからね。』
「ええ、どうぞどうぞ。」
『まったく、もう・・・。』
「ははは、そうそう、アーニーさん、あのね、お薬を大量生産してほしいのよ。当分秘密で。」
『なんのお薬ですか?』
「本物の、抗ブリューリ薬よ。」
『本物!? じゃあ今作ってるのは偽物ですか?』
「まあ、半分本物。ただし行き止まりのね。むしろ、ブリューリ退治薬ってところかな。」
『もう、まったく意味不明です。データください。』
「はいはい、でもくれぐれも、他の誰にも内緒よ。いい?」
「わかりました。あの、へレナ。」
「なあに、アーニー。」
「火星は相当まずいですよ。近々急激な異常現象が起こります。火山噴火、異常気象、大テロ豪雨、洪水、その他天変地異の連発が来ます。」
「そう。でも、それはわたくしの担当じゃないわ。まあ、かわいそうだからダレルとへレナに教えてあげなさい。」
「あの、へレナの担当じゃ無くても、ビュリアさんの担当じゃないですか?」
「む、・・・ふうん。なるほど。そうかな?」
「そうかな、じゃなくて、そうですよ。明らかに。それと、金星ですが、アーニーからは見えない部屋でなにやらさかんに密談してますよ。「青い絆」の行動隊長さんが、ビューナスさんの息子さんと密談をしました。」
「ほう。なんて?」
「いや、だからあの部屋は見えないし聞こえないのです。」
「まあ、もともと「青い絆」は、ビューナスが作ったものだ。よく知っている。」
「そらあそうでしょうね。あなたは構成員なんだから。」
「そうそう、お互い様なのよ。たぶんね、地球への移住を強行するつもりね。ビューナスの息子の持論だから。じゃあちょっと帰っといた方が良さそうね。」
「お呼びがかかるのでは?」
「それじゃあ、ビュリアの意味がないわ。」
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火星と金星の間には定期便が就航している。
「火星王立宇宙バス」と「金星バス公社」が相互に運営してるのだ。
しかし、さすがに地球との間には通常便はない。
それでも、不定期の観光宇宙バスは飛んでいるのだった。
地球は、女王様の「持ち物」とされていた。
しかし、ビューナスとの協議で、相当な契約金を金星側が支払うということと、許された場所以外には入らないという条件のもとで、協定が成り立っていたのだった。
そうして、このところ、金星からの観光バスが増加していた。
「金星バス公社」の社長は、他ならないブリアニデスだった。
ビューナスが消滅した事で、「スーパー・スペース・超空間ワールド」も彼の手に落ちた。
マヤコは、身も心もバラバラ状態で、しかし生きて金星に帰った。
会社からは、ステーションで見たことは、決して口外しないと言う約束をさせられ、そのかわりにかなり多額の臨時ボーナスをもらった。さらに「地球観光旅行」の優待チケットも配られた。「VIP扱い」の特別待遇の旅行だと言うことだった。
マヤコは、細かい事はどうでもよかった。そこで、誘われたまま、「地球観光」に出かけることにした。
同じツアーには、ステーションで一緒だった仲間も、他に三人加わっていた。
「地球には、いい温泉ができてるんだって。ゆっくり入ろう。」
三人は、結構大きな旅行用のスーツケースを引っ張りながら、宇宙港に集合していた。
「まあ、休む間もなかったけど、地球のホテルでゆっくりしようね。」
マヤコが言った。
「そうよねえ。もう少し間が空いていればねえ。」
ババルオナが言った。
「ルルカさんも、一緒に来られたらよかったのになあ。」
マヤコがしんみりと語った。
「まあ、仕方ないわね。ほら写真持ってきた。」
ヨオコがハンドバックから取り出して、みんなに見せた。
ステーションで四人で写した写真だ。
ウナは、普段からあまり口を開かない。ここでも、にこにこしているだけだった。
「はあ、こんなことになるとは思ってなかったよねえ。」
なんとなく、余計な事を言いそうだったマヤコを、他の三人がせかして、出発フロアーに向かって歩いて行ったのだった。
地球行の、観光宇宙バスは、200人乗りの中型宇宙バスである。
白い船体に、青いストライプが走り、遠目にもなかなかかっこいい宇宙バスだ。
「うわあ、いいじゃない。」
ババルオナが喜んで見せた。
出国手続きが済んだ四人は、チケットを片手の指にそれぞれ持ちながら、バスの乗込み口に並んだ。
決して安くはない旅行だ。
ツアーの参加者には、功なり名遂げた感じの、豊かそうな高齢者が多かった。
とはいえ、若くして成功したらしき様子の、なんとなくマヤコが嫌いなタイプのカップルもいたし、独身らしき若い女性も、何人かは見受けられた。
「どうぞ、前に。」
穏やかそうな老夫婦が、同時に列に加わりに来ていたが、奥様が身を引きながらそう言った。
「いえ、どうぞ、お先に。」
マヤコが少し恐縮したように答えた。
「いえいえ、いいんですよ。ほら、並んで並んで。」
その女性が四人を自分たちの前に並ばせた。
「グループで旅行?」
「はい、仕事仲間です。」
ヨオコが答えた。
「それはそれは。いい事ね。私たちは、生きてるうちに、あの美しい星をまじかで見たくてね。」
夫らしき男性は、にこにこしながら黙ってうなずいていた。
列が動き始めた。
乗船が開始されたのだ。
四人は、近くから見ると、思ったよりずっと大きな宇宙バスを見上げながら、前に進んで行った。
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ビュリア(=女王)は、地球行きのプライベートタクシーに乗り込んだ。
ものすごく高価な料金を取られるが、彼女にとってはそれほどのものではなかった。
なにしろ「青い絆」の背後にはビューナスがいた。
資金はほとんど無尽蔵と言ってよかったのだ。
おまけに、女王の財産は、さらにビューナスとの比較にさえならない。
まあ、「青い絆」について言えば、今後どうなるのかは、よくわからなかったのだけれども。
出国のパスも、まあ偽造と言えばそれまでだが、ビューナスの計らいで作成された「本物」である。
難しい尋問もなく、すんなり通過した。
地球への入場は、女王の許可が必要である。
実質的には、いまはリリカ首相が代行している。
問題があるはずもなかった。
宇宙タクシーは、すんなりと火星を離れて、地球に向かったのだった。




