わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第六十九章
踊り子ジャヌアンは考えていた。
『どこから断ち切れば、悪夢から救われるのか? 女王ヘレナは、未来なんかいくらでも変えられると言っていた。しかし、どうしても未来は変えられない。変えてもらっては困る。もしヘレナが即位しなければ、私たちの社会にはつながって行かない。過去がなくなる。この意味がまだ解明できない。結局ここまで来たが、まだよく分からない。私たちが実験台だなんて許せない。』
ジャヌアン(=アリム)は、過去の地位を手に入れようとしていた。
彼女は、自分たちの過去を守ろうとしていたのだ。それだけだった。
女王と同じように、実験してやろうとしていただけだ。
まさか、結局は自分が火星を滅亡させる直接の原因になるなんて、考えてもいなかった。
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情報局長は、激しい苦痛に打ちのめされていた。
ビュリアに、さんざん棒で打ち付けられたのなど、その時はまったく何の苦痛も感じていなかった。
しかし、今になってその痛みが何倍にもなって積み上がってきている。
間違いなく、人間の感情とか、思い出とか、そうした封じられていたややこしいものが蘇ってきている。
やっかいで、うっとおしくて、素晴らしいものだ。
散々苦しんでのたうち回ったあげくに、ようやく苦痛が和らいできた。
ここはどこだったか?
そうだ、自分はリリカを呼び出した。
あのおかしな部屋を使おうと思ったこと自体が、正しくなかった。
いや、下心があったからだ。
しかし、なぜこんなところに来たのか?
今、自分は、焼けただれた砂漠の上で無様にひっくり返っている。
ブリューリ様の生き写しである自分が、である。
ブリューリ様の生き写し?
彼は自分の手の平を見た。
きちんと血管が見えている。
ひっくり返してみれば、そこにも間違いなく血管が通っている。
ブリューリ人間の血管は見せかけだけだ。
「これは・・・本物か?脈がある。人に戻ったのか?」
「ああ、そういうことね。」
ビュリアが言った。
「薬が効いたわね。」
「薬?」
「そう。抗ブリューリ薬を注射したのよ。」
「いつの間に、そんなものを。」
「最近ね。どうかしら? よーく考えて答えなさいね。まだ、ブリューリの指示に従うつもり?それとも考え直す?」
「いや、自分は混乱している。」
「まあ、そうでしょうとも。しばらく入院ね。救急隊をよこすわ。おとなしく確保されなさい。」
どうなっているのか、さすがの局長にも理解ができなかったが、十人余りの白衣の男女が砂漠の砂煙の中から救急担架を持って現れた。
「担架」と言っても、自分で宙を浮きながら隊員たちと一緒に走って来る。いや飛んでくる。
「なんだあれは。」
「ここでしかできない芸当なの。あなたの場合、まだ危険性が高いから、特別な医療機関で静養してもらいます。逃げようとしても無駄なところよ。景色は良いし、空気もきれい。食べ物は美味しいし、言うことなしなのよ。ここからあなたを直送します。逃げようとしても無駄よ。」
「ババヌッキの実のようなことを言うな!」
「あら、確かに人間らしくなってきたわ。よかった。」
最後のところは、ビュリアは、からかったのではなくて、まじめに言ったのだ。それは局長にも、ちゃんと伝わったのだった。
局長は、少しだけほほ笑んだような感じがした。
リリカ(本体=アンナ)とカシャが許可もなく近寄ってきていた。
「あら、いらっしゃい。局長さん、なにかリリカさんに言うことがない?」
担架に寝かされながら、局長はリリカの顔を見た。
それから、少し言いにくそうだったが、
「すまなかった。」
やっとの思いで、なんとかそう言って、謝罪をしたのだった。
局長は救急隊員に担架に乗せられた。
すると、担架の上には自動的にフードが被さってしまった。
それから彼は、救急隊員に囲まれながら、砂塵の中に消えて行った。
「どこに行ったのですか?」
「救急病院。よくしらべなくちゃね。これから先のモデルケースだもの。」
「尋問できますか?」
「ええ、よろしくてよ。」
ビュリアは、なんだかこれまでよりも、ずっと輝いて見えたのだった。
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「何時までもここにいるわけにもゆかない。一旦火星に帰って、それからにしなければ。」
ダレルがつぶやいた。
「ええ、でもこの人たち、どうする?」
「「ひと」とは言えないが。地球の衛星(月)の研究施設を作るのに、どれくらいかかるかな? アブラシオさん。」
「まあ、二日もあれば、大丈夫です。宿泊施設は、もう完成しました。」
「ふうん。ありがとう。ところでアーニーさん、レポートは読んだよ。」
「ええ・・・火星に戻ったら、ビュリアさんと相談して、計画を練ってください。すでに第一実験は成功しました。」
「なに、第一実験って?」
リリカ(複写=精神)が尋ねた。
「情報局長さんを人間の姿に戻して、薬剤を注入し、人の体に復元させることに成功しました。いろいろなことが分かってきました。」
アーニーがしゃべった。しかし、ダレルもリリカも余計な事は言わなかった。
「アブラシオの中の女性が、待ちかねていらっしゃいますよ。」
アブラシオが追加報告した。
「ああ、そうだ、ジャヌアンのことを忘れていたよ。大臣二人は移送できたかい?」
「はい。今、完了しました。格納庫の壁に、必死に取りついていましたよ。」
「まあ、かわいそうだけれどねえ。少しだけね。では、ここはコピーアンドロイド研究員にお任せして、一旦帰ろう。地球の「月」経由。」
「了解しました。」
ダレルとリリカ(複写=精神)はアブラシオに戻った。
そうして、アブラシオは、ゆっくりと人工ステーションから離れて行った。
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ジャヌアンは、窓からその様子を眺めていた。
「ほう・・・どこに行くつもりかな? 火星からも遠ざかってゆく。」
ジャヌアンの脳は、すでに二体のブリューリの意識と接触していた。
彼女の脳の中の、小さな小さなコンピューターたちは、その情報を分析し蓄積した。
おかげで、彼女自身はその意識に直接影響されることはない。
たとえ、意識的に、一時的に影響されても、すぐ元に戻される。
つまり、彼女の洗脳は事実上不可能だ。
唯一の弱点は、脳の中の肉眼では見えない位の、極小コンピューターが破壊された場合だけだ。
その技術は、この時代の火星には無い。
もっとも殺すことは、可能だけれど。
つまり、現在の火星の技術レベルは、ジャヌアン(=アリム)の時代の地球の技術力よりは、だいぶん低い。もちろん、女王はいつも別だけれども。それに、このアブラシオも別格の存在だった。
「まあ、おかげさまで、随分情報は集まってきたわ。過去の世界は、自分の存在がない分、やりやすい面も多いものね。今のところの計算では、大きな変動はない。失敗は繰り返せない。ここからやり直したらどうなるのか。まだ答えは出ないわ。」
地球の未来人工作員ジャヌアンは、女王ヘレナが未来を変更しようとしていることを知っていた。
ヘレナにとっては、あくまで自分たちは歴史の実験台であり、本筋ではないことも。
そうして、へレナは沢山の歴史の分流を作って、未来がどうなるのかを実験し、その中から都合の良いものを歴史の本流としている「らしい」、ことを。
しかし、いろんな面で、それでは筋が通らなくなる。
見限られた歴史は、人間たちは、生き物たちは、どうなるのか?
時間の進行は、どこも同じじゃないのか。
彼女は、実証し、必要な修正をし、場合によってはヘレナの存在を排除しなければならなかった。
ただし、地球のその時は、まだ排除する時期ではなかった。
排除するのは、彼女の「双子の妹」の仕事になるはずだった。
だから、この先地球で、ヘレナに地球の女帝になってもらわないと困る。
そうでないと、アリムの地球は解放されなくなる。
一度試みたが、失敗した。
そう何回も失敗できない。
遠い過去にまでさかのぼって、もう一回修正ポイントを洗い出し、探し出さなくてはならない。
自分たちに都合の良い形で、他の修正方法がないのかも考えなくては。
「他の修正方法か・・・・・。」
アリムは少し考え込んだ。
「ふ、ばかな修正方法だ。ナンセンスだ。」
アリムは、頭の中で、ひとりぶつくさ言っていた。
頭の中のコンピューターは、まったく反応しなかった。無視された格好だった。
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********** アリムさんへのインタビュー ***********
作者「こんにちは。さてアリムさんは、ここんところが、実は初登場なんですね。」
アリム(ジャヌアン=以下略)):「はい。他のお話では出てましたが、このお話では初めてです。」
作者:「居心地はいかがですが?」
アリム:「そっちのほうも、中途半端で放り出され、今回もなんだか空中ジャンプをしながら出演しているようで、とても安定感が欠けています。」
作者:「いや、書いてる方もそうなんですよ、実は。あなたは非常に魅力的な配役なのに、作者の頭がついて行けないのです。書いてるうちに、わけがわからなくなり、このまま放棄したくなります。」
アリム:「まあ、せっかく出したのですから、放棄しないでほしい。確かに時間のお話になると、どうしてもどこかに無理が生じます。映画とか見てもそうですよね。急に抽象的になったりもします。」
作者:「そうなんですよ。数学は僕の理解の範囲外の世界です。音楽でも、絶対音感の世界はそうです。絶対音感のある方は、なんでも音を聞くと、あたかも目の前に鍵盤が浮かんで、それがなんの音なのかがすぐに確定される。だからおかしな音程で歌う人を見ると気持ちが悪くなる、とかおっしゃってました。都合の悪い事もあるんだと。」
アリム:「あなたは、何事も中途半端なことが、利点なんですね。すべてつきつめない。いい加減で済ます。」
作者:「はあ、まあそうですね。でも、やたらに突き詰めないと気が済まない事もあります。電気回路の知識もないのに、鳴らないラジオを見ると分解しないと気が済まない、とか。昔からですよ。」
アリム:「お気の毒に。随分無駄金を使ったのでは?」
作者:「まあ、授業料です。おかげで知識は無くても、勘が働いて、鳴らない品ですと言うことで、ジャンク品で買ったラジオの三分の一くらいは鳴るようになります。魔法ですね。」
アリム:「それだけ、よく確認しないで放棄されるラジオもあると?」
作者:「そうなんです。例えば、電池ボックスの端子にさびとかが付着していて、掃除してやるだけでガンガン鳴った、ということも何度かあります。単に、はんだ付けの接触が悪くなっていただけとかも。スイッチ付きボリュームの接触が悪くて鳴らなかった、とかもありました。でもIC時代以降は、素人の魔法は、まず効きません。古い電池式トランジスタラジオでないと、魔法は効かないですね。家庭電源を使うものは、危ないので、ぼくは手を付けないです。素人が触るのは危険です。」
アリム:「なるほど、私は、手が付けられない方ですか。」
作者:「そうです。時間のパラドックスに陥るようなケースは、ファンタジーだとしても、なんか危険です。扱いにくいし、自分がついて行けない。扱いにくいのではなくて、扱ってはいけない人ですね。」
アリム:「あらまあ、じゃあ出さなきゃいいのに。」
作者:「いやあ、まあ、なんと言いますか、ははは、色々と。今日はどうもありがとうございました。」
アリム:「む。インタビューを、一方的に打ち切ったな。」




